ここ1カ月のリオの動き、連邦政府による治安部門の直轄統治は、「選挙対策」として見ると興味深い。現政権が腕まくりして取り組んできた社会保障制度改革が、週明けの下院承認がムリだと噂され出した2月16日、テメルは突然、直接統治暫定令を出した。しかも、社会保障制度改革を通すために必要だった両院での賛成議員数をはるかに上回る票を得て、直接統治令は正式承認された。テメルの面目は立った。
政治経済コメンテイターのカルロス・サルネンベルグ氏は2月21日朝のCBNラジオで「これはリオが緊急事態だからやったんじゃない。社会保障制度改革を可決させられないから、ごまかすために直接統治を始めたんだ。リオの治安のためといえば誰も文句を言わない」とコメントした。
興味深いことに、そのコメントを後日聞き直そうとCBNサイトで確認すると、なぜかそこだけ削除されていた。
さらにサルネンベルグ氏は「直接統治令のおかげで、最高裁で審議中の法的特権(Foro privilegiado、連邦議員の犯罪容疑は最高裁でのみ審議するなどの特権)を持つ者を大幅に減らす法案も凍結かも」と指摘し、ラヴァ・ジャット作戦で容疑者になった政治家らが胸をなで下ろす心境を予測した。
さらに同氏は「リオは全伯でも最多赤字を抱える州。その理由は公務員の人件費だ。法律では歳入の40%までしか人件費に使ってはいけないが、なんと60%も。そこを削らないと立て直しはできない」と明言した。
つまり、公務員という大票田を考えたら、政治家は誰も手を付けたくない問題だ。根本治療としてリオ財政立て直しに取り組むなら、公務員削減、その年金や給与体系を見直す必要がある。それは政治家には難しい。そこに踏み込めるのは軍…という判断も働いているのか。
直轄統治令が発令された後、まっさきに反応したのは大統領選有力候補のボルソナロ下議で、「それは私の政策だ!」というもの。軍政独裁政権中の拷問まで正当化する強面右派の彼らしい政策かもしれない。
そこから透けて見えるのは、ボルソナロ支持層が現政権のやり方に共感を覚えるだろうということ。リオ直轄統治が「ボルソナロの支持層を取り込む選挙対策」だと思えば、妙手かもしれない。
またFHC元大統領はエスタード紙主催フォーラムで「テメルは支持率が最低だから、国民からの信頼度が高い軍に頼らざるを得なくなった」と分析したのも一理ある。
リオの治安において、ファベーラの犯罪集団のボスと結びつく汚職警察の問題は、「誰も触れてはいけない問題」として以前から扱われて来た。映画『トロッパ・デ・エリーチ』(邦題『エリート・スクワット』、ジョゼ・パジーリャ監督、07年)で衝撃的に描かれた通りだ。
14日、マリエレ市議が運転手と共に殺害された事件も、警察がファベーラで起こした人権侵害を彼女が告発している最中に起きた。
警官による殺人や汚職などの犯罪は最もタチが悪い。下手な国の軍隊よりも人数が多い警察組織を黙らせながら、悪徳警官を摘発するという荒業ができるのは軍しかない―という理由で現政権が「治安部門の直接統治」という判断を下した可能性もある。
悪徳警官にプレッシャーを与えないようにやんわりと直接統治をはじめ、じわじわと締め上げる最中のタイミングが今だ。その流れで、突出して目立つ告発をしていたマリエレ市議が暗殺された。その流れを知っているメディアや関係者は、マリエレ殺害事件をテコにして一気に世論を味方につけ、悪徳警官撲滅への機運を高めるために動いている感じがする。
特に、リオが本拠のグローボTV局にとって治安は死活問題だ。今までの反テメル的な報道姿勢から一転、マリエレに関しては現政権に協調的になっている感じだ。ジウマ罷免、ラヴァ・ジャット作戦の盛り上がりなど、グローボ局の報道の力は大きい。
つまり本来は、腰砕けになった社会保障制度改革を隠すために発令された感のあるリオ直接統治令だが、そこにマリエレ事件が重ねて起きることで、現政権にとってはボルソナロ(大統領候補支持率2位)のお株を奪い、ルーラ(同支持率1位)に代表される左派勢力との関係を地ならしする政局効果が結果的に生まれている。
4月7日以降、10月の統一選挙に出馬する大臣がゴッソリ抜けて、抜け殻の様になる可能性のある現政権。だが、軍のおかげで、意外に政治的な安定性は保つかもしれない。(深)
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