テメル大統領とコロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領が20日、ブラジリアで首脳会談を行い、ベネズエラ人の大量流出(両国にとっては大量流入)がラ米諸国に混乱をもたらしているとの認識を明らかにしたと21日付ブラジル国内紙が報じた。
ベネズエラでの政治的、財政的、人道的な危機は、メルコスルや米州機構、国連までが懸念する事柄の一つだ。特に、反体制派の政治家が投獄されたり有罪判決を受けたりする中、12月のはずだった大統領選が5月に前倒しされ、野党側が大統領候補擁立を断念せざるを得ない事で、懸念が更に拡大している。
食料や医薬品も満足に入手できず、政治的迫害もある中で急増しているのがベネズエラ人の大量流出だ。ロライマ州に流入した同国人がはしかを持ち込んだ事も、同国の困窮状態を如実に表す事象の一つだ。
テメル大統領とサントス大統領は会談後、ベネズエラ政府に対し、域内諸国からの人道支援を受け入れる事と、民主的な選挙の実施、反体制派への抑圧停止などによる政治的な安定回復を求めると語った。ベネズエラは、選挙時の監視といった、周辺諸国からの支援の申し出もかたくなに断っている。
テメル大統領は、「ベネズエラ人がブラジルやコロンビアに大量流出(流入)している事で、ラ米諸国に混乱が生じている」とも発言した。
これは、19日にロライマ州ムカジャイー市で起きた、ベネズエラ人が暮らす収容施設襲撃事件などを念頭に置いた発言だ。同市での事件は、18日に起きたベネズエラ人と現地住民とのケンカで、双方から1人ずつの死者が出た事が引き金となった。
同州には、州都ボア・ヴィスタだけで推定4万人のベネズエラ人がいる。ベネズエラ人が急増し始めて以降、同州内では、医療機関が満杯で医薬品も不足、公園などがベネズエラ人収容施設に改造されるといった事態が起きている。犯罪増加も、市民の不安や不満を募らせていた。
そんな中、州都から50キロ余離れたムカジャイー市でケンカが起き、49歳の地元住民と19歳のベネズエラ人青年が死亡。19日の葬儀中に抗議行動が起こり、抑制が効かなくなった住民約300人が、ベネズエラ人約200人が身を寄せていた収容施設(学校)を襲い、女や子供まで引きずり出すと、所持品を道路に投げ出して火をつける事件に発展した。市役所によると、同市では事件後、ベネズエラ人が姿を消したという。
20日には、ベネズエラとの国境の町パカライマで、ブラジル国旗を手にした住民らが、スポーツ施設をベネズエラ人収容施設に改造する計画に抗議し、「ベネズエラ人の侵入に終止符を」と叫びながらデモを行った。同市では水や薬、病院の対応枠も底を突き、唯一の娯楽施設の改造に住民の不満が募っていた。
なお、大統領同士の会談では、小・零細企業に関する共通理解や、両国間の貿易活性化も話し合われ、家族農保護での合意が取り交わされた。