カーニバル出場が叶わず落胆した和同のメンバーたち。そこに声をかけたのがサルバドール旧市街にあるホステル「なお宿」のオーナー、澤田直也さん(45)だった。
彼が主催し「なお宿」の宿泊客を中心に結成されるブロッコ「ナタカトシア」で一緒に演奏するよう誘った。それはカーニバル本番1カ月前のこと。メンバーからは「本番までの練習期間の短い」「和太鼓と演奏スタイルが違う」「和太鼓ではないのに出場する意味があるのか」など消極的な意見が大半だった。
それでも約30人のメンバーのうち、砂野カロリーナ風花さん(24、3世)を含めた6人が参加を決めた。砂田さんは「カーニバルは子供のときから見ていた夢の舞台」と話す。
練習を始めると、思いのほかバイーア音楽用の楽器が扱いやすいことが分かった。和太鼓が腕さばきだけでなく下半身の姿勢を重視するのに対し、リズムに合わせて身体を動かせるので疲れにくい。それまで和太鼓を肩から提げて練習していたので、比較的軽いサンバ用の打楽器はそれほど負担に感じなかった。
ただ、和太鼓の発表は30分ほどなのに対して、カーニバルでは3時間以上に渡って楽器を肩から提げたまま移動しなければならない。それは砂野さんたちにとって今まで経験したことのない長丁場だった。
本番初日について砂野さんは「全く緊張していなかった。これまで10年間、色んなイベントでお客さんを前に和太鼓を叩いてきた。大舞台は慣れてるの」と微笑む。
「ナタカトシア」は旧市街地の北部からセントロのペロウリーニョ広場に向けて演奏をしながら進んだ。広場には歌手がパフォーマンスを行うステージが設置され、観客でごった返している。
「ナタカトシア」の演奏は単純なフレーズを繰り返して、波のように押し寄せてくる感じ。先頭に立つ澤田さんのリードで、一斉に別のフレーズに切り替わる。砂野さんたちが身にまっとった和太鼓のときとは違うカラフルな衣装や、顔や腕に施されたきらびやかなペイントは、彼らの明るい表情を際立たせた。
演奏を見る観客は始め、日本人、日系人がほとんどのブロッコに驚いた様子だったが、そのうちに周囲を取り巻いて踊りだした。演奏は休憩を挟みつつ3時間半も続いたが、砂田さんは「観客が楽しんでいるのを見てとても嬉しくなった。時間があっという間に過ぎていった」と話した。
和同は来年こそ和太鼓で出場することを目標に定めている。砂田さんは「今年出場できなかったのは本当に悔しい。でも私たち6人が得た経験は必ず来年に生かされる」と話す。本番では観客の盛り上がりを肌で感じることができたし、長時間にわたって太鼓を提げて移動することでどれだけ身体に疲労が溜まるのかが分かった。
「来年は絶対に出場します」。一度辛酸を舐めただけにその決意は固い。(終わり、山縣陸人記者)