先週の半ば以降、ブラジルでは、14日に衝撃の殺害事件で世を去ったマリエーレ・フランコ・リオ市議があらゆるメディアのニュースを独占し続けている。「ファヴェーラが生んだ、人権運動の若き女性闘士」ともなればブラジルでの黒人やマイノリティへの受けは抜群で、今やその波はアメリカをはじめ世界的にも及びつつある▼だが、彼女が「新たな時代の英雄」扱いされる一方で、ネット上ではそれに負けないくらい、彼女の名声を貶めようとする連中も多く存在する。悲しいかな事実だ。その攻撃の主は、ラヴァ・ジャット作戦以降、「労働者党(PT)憎し」とばかりに急増しつつある、いわゆる「ブラジル版ネトウヨ」に類する人たちだ▼彼らは「彼女の運転手だって殺されたのになぜ注目されない(実際はかなりされていたが)」「リオでは毎日のように人が死んでいるのになぜ彼女だけが」「黒人で女性というだけで注目される」などと書き散らした▼そして、それがエスカレートすると「(マリエーレ氏の所属政党の)社会主義自由党なんてゲリラ同然の極左なのだから3人まで殺したってかまわない」という暴論が飛び出すは、「マリエーレの娘はリオの犯罪組織の親分との間の子供」「彼女が当選できたのは犯罪組織と盃を交わしたからだ」などという、いわゆる“フェイク・ニュース”まで飛び出すありさま▼このでっち上げ騒ぎがニュースで批判的に報じられて以降は若干そうした中傷は収まった。だが現在も、ネトウヨが多く集まるヴェージャ誌やUOLのフェイスブック上のマリエーレ氏絡みの記事には、内容が悲しいものやまじめなものにも関わらず、ネトウヨたちから執拗に、小馬鹿にしたような笑顔の絵文字がつけられ続けている▼この件で第一に悲しいのは、人が亡くなるということに関し、素直に「悲しい」と思えない人がかなりの数いることだ。たとえ主義主張が違ったとしても、さすがに相手が亡くなったとあらば立場を超えて残念に思うのが人情だろう。だが、「自分の主義主張」を通そうとするあまり、まるで自己暗示でもかけるように詭弁をまくし立てる。ネット上での彼らのコメントの内容が似通ったものが多く、没個性的に感じられた▼そして、コラム子としてはそれ以上に嫌なのが、「実は、彼らの多くが、本当のところは政治なんてどうでもよくて、注目される人に対してただ単に焼きもちを焼いているだけに過ぎないのではないか」と思われることだ▼思い当たるふしがある。14年のサッカーのW杯の頃、ネット上では自国開催であるにもかかわらず、やたらと「金で優勝を買ったW杯」などと騒ぎ立てる人がかなりの数存在した。あの当時、ネイマールは22歳と若かったが、その時点で億万長者のスーパースター。「まだ若造で本当の実力もないくぜに、メディアやサッカー協会まで取り込んで出来レースしやがって」みたいな論調でネット上で大騒ぎする人をコラム子はよく目にしたものだった。実際、そんな「金で買ったW杯優勝」など存在せず、ブラジルは全く別の屈辱を味わうことにもなった▼その後も、芸能界のスターや、出世が早く欧州強豪と若くして巨額契約したサッカー選手などが出てくると、大概似たようなネット上の妬みが浮上し、荒れる傾向が目立っている▼マリエーレ氏の今回のネット上の騒ぎも、通りにまで出て哀悼する人があまりにも多いマリエーレ氏がただ単にうらやましくて仕方がないだけに見える。それで嘘をばら撒いたり、人の気持ちを傷つけたりするのは止めにしてほしいものだ。(陽)