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ブラジリア=第8回世界水フォーラム=皇太子殿下が基調講演=「21世紀は水による繁栄の世紀に」=新時代のご公務を模索され

英語で基調講演をされた

英語で基調講演をされた

 皇太子殿下は19、20の両日、首都ブラジリアで開催された「第8回世界水フォーラム」にご臨席された。9年ぶり、4回目のご出席となった。来年5月1日に新天皇に即位される殿下にとって、今回が即位前の最後の同フォーラム出席となった。殿下は開会式でご挨拶されたほか、「水と災害」のハイレベルパネルにおいて基調講演に臨まれた。象徴天皇としての在り方を模索して国民に寄り添われてきた今上陛下の想いを踏まえ、時代に即した公務の一つとして「国民の幸せ」に加え、「世界の人々の生活向上」を願うがゆえに水問題を研究されてきた殿下のお姿を深く印象づける機会となった。

 19日午前10時、首都のイタマラチ宮(ブラジル外務省)で開催された開会式には、ミシェル・テメル大統領、ホドリゴ・ローレンバーグ連邦区知事、アロイシオ・ヌネス・フェヘイラ外務大臣ら政府要人のほか、各国首脳や政府要人らが出席した。その様子は同フォーラムのメイン会場であるウリッセス・ギマランエス会議場に生中継された。
 地球環境保護や持続可能な開発の考え方に大きな影響を与えた1992年のリオ環境サミット、2012年のリオプラス20の開催地がブラジルであった経緯を踏まえて、30年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて着実に履行していくことをテメル大統領は表明し、政府が取組む水問題の課題について紹介した。
 「水が全ての人のものとなる世界のために、我々は力を結集していかなければ」と国際協調を訴え、「水を守ることは人間の尊厳を守ること」と水問題の重要性を強調した。
 また、開会式に臨席された殿下は、「水と地球環境や他分野との緊密な関わりを知り、過去の経験や良き事例を共有し、解決のための行動を起こすため、この水フォーラムが素晴らしいきっかけとなることを期待します」と英語でお言葉を述べられた。

▼水問題を新たな公務に

テメル大統領と握手される皇太子殿下(Alan Santos/Agencia Brasil)

テメル大統領と握手される皇太子殿下(Alan Santos/Agencia Brasil)

 殿下は学習院大学ご在学時に交通・流通史を専攻し、英国オックスフォード大学留学時には、テムズ川の水運史を研究された。水問題を研究するなかで、視野や活動の幅を広げられる大きなきっかけとなったのが、03年に京都にて開催された「第3回世界水フォーラム」だった。
 同フォーラムで名誉総裁を務めた殿下は、世界各国の専門家との交流のなかで、水を巡る問題が社会的弱者や地球環境、自然災害など多方面に渡ることに驚き、理解を深めたいと考えられるようになった。以来、メキシコで開催された第4回、トルコで開催された第5回フォーラムでも基調講演に臨まれた。
 そんな11年3月11には東日本大震災が発生。津波による壊滅的な被害により、死者・行方不明者は1万8434人に上った。その翌年にフランスで開催された第6回フォーラムでは、869年に発生した貞観地震を例に、過去の災害の教訓に学ぶことの重要性を訴えかけられた。
 昨年2月21日にお誕生日に際した記者会見で殿下は、「『水』問題については、水は人々の生活にとって不可欠なものであると同時に洪水などの災害をもたらすものです。このように『水』を切り口として、国民生活の安定、発展、豊かさや防災などに考えを巡らせていくこともできると思います。私としては、今後とも、国民の幸せや世界各地の人々の生活向上を願っていく上での一つの軸として、『水』問題への取組みを大切にしていければと思っております」とお考えを述べられている。

▼移民110周年にも言及

 同日午後2時、ウリッセス・ギマランエス会議場にて開催された「水と災害」をテーマとしたハイレベルパネルにおいて、殿下は「水がもたらす繁栄、平和、そして、幸福」と題した基調講演をおよそ35分間に及び英語で行われた。
 冒頭、昨年は世界各地で水関連災害に見舞われ、日本でも九州北部で豪雨があったことに触れられ、全ての犠牲者に対し深い哀悼の意と被災者の方々にお見舞いの気持ちを表明された。
 さらに殿下は、「開催国ブラジルは心の広い国である」として、世界中から多くの外国人移民を受け入れてきたと語り、「今年、日伯両国はブラジル日本移民110周年を迎えます。ブラジルの繁栄と発展に貢献されてきた全ての方々に心からの敬意を表します」と日系社会にも想いを寄せた。

▼水による繁栄、平和、幸福

 殿下は本題へと移り、「どのような地域や国においても、水は人々の生活や社会の発展を維持するための不可欠な要素の一つでした」と水問題の重要性を強調された。水はいつでも自由に利用可能なものではなく、それゆえに繁栄、平和、そして、幸福のため水を巡る問題に取組んできたのが人類の歴史だったとして、具体的な事例を取上げて説明された。
 江戸時代に慢性的な水不足により水を巡って争いが絶えなかった安城ヶ原において、豪農・都築弥厚が発案した明治用水(農業用水路)はその一例だ。
 これにより先進的な農業地帯の一つに成長したことを指摘し、「これは地域の経済と社会の発展に、水がどのように著しく貢献したかを示す好例です」と話された。

36年ぶりにEMBRAPAを視察された(Marcello Casal Jr./Agência Brasil)

36年ぶりにEMBRAPAを視察された(Marcello Casal Jr./Agência Brasil)

 もう一つの例としては、セラード農業開発を挙げた。この度、36年振りにセラード農牧畜研究センター(EMBRAPA)をご視察された殿下は、「日伯研究者がセラードを変貌させようとの情熱的な決意と継続的努力に深く感銘を受けました」と当時を振り返った。
 さらに「36年前に見た人々の夢は実現し、今や世界でも先進的な農業地帯の一つに変貌を遂げたのです」と話された。
 かつては不毛地帯と呼ばれた地域が、「水」への着眼ではなく土壌改良や開発によって変貌を遂げたことを指摘し、「水の分野と他分野の人々との緊密な協力を促進することによって、私たちに新たな発展の水平線が開けてくるのです」と訴えかけられた。
 今フォーラムのテーマである「水の共有」の重要性について強調した。武将・武田信玄が水争いをしていた3つの村に、農業用水を均等に配分するために築いたと言われる山梨県の「三分一湧水」を例に、「これが示しているのは、情報を共有し、水と水源を守るために協調し、異なる水利用を折り合わせることが、水の共有、そして繁栄、平和、幸福を達成する第一歩だということです」と過去の教訓を紐解かれた。
 続いて、地球温暖化や気候変動により、豪雨や洪水、旱魃など水関連災害が激化していくことが懸念されるとした上でで、「最も影響を受けるのは女性や子供、お年寄りや障害のある人たちなど、社会的に弱い立場にある人々です」と語り、世界の人々の生活向上に密接に係わっていることを強調された。
 殿下は「水は貧困や教育、ジェンダーのような開発目標とつながる横断的課題」と位置づけ、「あらゆる分野の人々が、包括的な方法で問題を解決してゆくために、ともに手を携えるときです」と訴えかけられた。
 そして「21世紀は水の世紀と言われていますが、21世紀は水による繁栄、平和そして幸福の世紀であったと後世の人々に呼ばれることとなるよう願っています」と締めくくり、水を巡る問題を引続き見守っていきたいというお考えを示された。
 最期に「ご清聴ありがとうございました」とポ語で挨拶されると、会場からは大きな拍手が送られた。
 翌20日に殿下は、「ブラジルにおける水危機」、「包括的及び多機関提携と参加型管理」をテーマとしたハイレベルパネルを聴講されたほか、エキスポ&フェアにて、水関連の取組みを紹介する日本の自治体や企業などが参加する「日本パビリオン」をご視察され、同日夜に帰路に着かれた。

 


第8回世界水フォーラムとは

 世界水フォーラムは、仏マルセイユに本拠を置く民間シンクタンク「世界水会議」によって運営される、世界の水問題を扱う国際会議だ。世界で深刻化する水問題、特に飲料水、衛生問題における世界の関心を高め、世界170カ国以上から水企業、水事業に従事する技術者、学者、非政府組織、国際連合機関等のあらゆる分野の人々が一同に集い、世界の水政策について議論することを目的として3年毎に開催されている。
 南半球で初開催となった今フォーラムは、18日から22日にかけて開催され、「水の共有」をテーマとした200以上のセッションやディベートが催された。そのほか、各国政府や企業などおよそ100団体が出展するエキスポ&フェアのほか、新たな取組みとして無料開放された「市民村」も設置された。開催期間中には、およそ4万5千人が来場したと見られる。次の第9回フォーラムは2021年に西アフリカのセネガル共和国で開催される。