ニッケイ新聞が主催する「第62回パウリスタ・スポーツ賞」が4日午後7時、サンパウロ市議会貴賓室で行われた。戦後の勝負抗争で二分化された日系社会をスポーツ振興を通じて融和させる目的で創設された同賞。今年の受賞者は将棋含む特別賞8人、18競技で17人が受賞し、会場には受賞者の親族、友人ら約500人が駆けつけ受賞者の晴れ姿を祝った。また、野村アウレリオ市議やペドロ・カカ州議、元州議の下本八郎氏、在聖日本国総領事の野口泰氏のほか日系団体代表者など錚錚たる顔ぶれが来賓として出席し、輝かしい活躍を見せた受賞者を祝福した。
式典ではまず、先没したスポーツ分野での先駆者、功労者へ1分間の黙祷を捧げた。
開式挨拶に立った野村アウレリオ市議は当日、まさに同じ時間に最高裁では、汚職疑惑で逮捕されるか否かというルーラ元大統領に人身保護令(HC)を適用するかどうかの審議が行なわれていることに触れ、その時点での投票数が1対3で適用反対が優勢であることに言及した。
それに対して日本移民は、汚職とは対極ともいえる「スポーツを通して健全なる日本の精神性を伝え、建国に貢献した」と強調した。「今回の受賞者には私達の世代の手本として活動し続けて欲しい」と語りかけた。
同じく来賓として出席した野口泰在聖総領事はポ語で挨拶。昨年10月の着任からサンパウロ州各地の日系社会を訪問した同総領事は各地の日本人会館のスポーツ設備の充実ぶりに目をみはったことを明かし、「ブラジルの柔道家の多さにも感激した。日本には約18万人だが、ブラジルにはなんと200万人。この数字を見るだけでもブラジルのスポーツ分野における日本人移民の貢献がわかる。今後、日系社会のスポーツ分野における活動も支援を続けたい」と語った。
本紙の高木ラウル社長も賞の由来を紹介し、「小さいが長い歴史と重みがある賞」と説明、受賞者に祝いの言葉を贈った。
その後、受賞者らに記念プレートとニッケイ新聞社発刊の書籍が贈られた。特にソフトボールの最年少受賞者、レベッカ・ジニース・ラウジーノさん(17)、陸上競技で特別賞を受賞した松田夫妻、相撲競技特別賞の尾迫幸平さんらには会場の親族や友人から元気のよい歓声が飛んだ。尾迫さんには9人の孫の1人、フェリッペくん(14)から特製の金色の力士像が贈られた。
全ての受賞者に賞が渡されると、卓球競技受賞者のオヤマ・タロウ・ルイスさんが代表挨拶として感謝の言葉を述べた。
カカサンパウロ州議の挨拶後に下本氏は、日系団体や来賓、受賞者の活動を称え、日本人移民やその子孫がスポーツ分野の活動を通しブラジルの青少年に日本文化やその精神を伝えてきたことを、州議現役時代を思わせるような力の入った演説をした。
「今日は皆さんに祝いの言葉を贈りたい。その誇り高い活動を続けて欲しい」と熱く語りかけ、日本人的な精神がブラジルの建国に重要であることを熱弁した。
その後「幸せは長く、話は短く」と笑いを取って終えると、会場から大きな拍手が贈られた。
異例だった陸上競技特別賞=夫婦2組が仲良く受賞
特別賞では夫婦の陸上競技者が2組受賞。松田孟(83)、敏江(74)夫妻、清水トミヒコ・アントニオ(90)、ミツ・イギネス(86)夫妻だ。
清水夫妻は現在までに700ものメダルを受け取ったほか、昨年末にはグローボ・エスポルテ番組で大きく取り上げられ、ボクシングやテニス、陸上で汗を流す健康的な生活が放送されるなど日系社会の外でも注目を浴びた。
式後、イギネスさんは「とても感動、涙が出たほどよ」と笑顔を見せ、アントニオさんは「美しい賞を貰えて本当に嬉しい。健康の限りスポーツを続けたい」と喜びを語った。
友人である清水夫妻の祝いに駆けつけたブラジル陸軍の元少将小原彰さん(78、二世)は、「本当にすごいこと。84、90歳になっても頭の回転は速いし、毎日あちこちに外出するなど精力的に活動している」と驚きを語った。
松井夫妻は現在もACREAで5歳以下の子供たちを教えており、同文協に大きく貢献している。昨年同文協の67周年の際には夫妻の功績を讃えるため陸上競技場に松田夫妻の名前が付けられ、銅像が建立された。
孟さんは「陸上を通してできた友人、健康でいられるなど嬉しいことがたくさん。今日は喜んで帰る」と笑った。また敏江さんは「健康である限り指導を続け、子供達にはスポーツを通して人として大切なことを学んで欲しい」と期待した。
ACREA会長のサイトウ・ノリコさんは夫妻の活動について、「一生懸命子供達を指導して、倫理や道徳観などといった人生に必要なことも教えてくれている。36年間指導し続けてくれているが、これからもお願いしたい」と語った。
特別賞の将棋で川合さん=「ブラジルで競技普及を」
将棋部門で特別賞を受賞した川合昭さん(83、秋田県)は「ブラジルで将棋を普及させたい」と今後の意気込みを述べ、「日本では藤井聡太六段の活躍が話題になるなど『将棋フィーバー』の真っ只中。ブラジルでも有名なチェス選手が将棋をはじめたりしている」とブラジル将棋会の傾向を紹介した。
相撲特別賞の尾迫幸平さん(91、鹿児島)はパウリスタ・スポーツ賞について「こういった賞でどんどんスポーツを盛り上げるべきだとつくづく思っている」と語り、「サンパウロ市でもっと若い力士が増えるよう力を入れたい」とブラジル相撲への協力を誓った。
道としての精神伝えたい=竹内さん「本当の剣道を!」
剣道部門で受賞した竹内大惠子さん(70、高知県宿毛市)のご主人は第55回パウリスタ・スポーツ賞受賞者の故竹内憲一さん。憲一さんがブラジル三重県人会に剣道部を創設し、以来夫婦で指導にあたった。竹内さんは現在も同部顧問として活動を支えている。
2014年に亡くなった夫に続き受賞した竹内さんは、「私は受賞しないと思っていたが驚いた」と語った。
また「剣道は単に棒で人を叩くことではない。我々は道としての〃剣道〃を教えるので、技術だけでなく精神性を正確に伝えたい。一世として本当の剣道をブラジルで普及させたい」と熱く意気込みを語った。