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《ブラジル》二天=古武道広めて25年=宮本武蔵の教えをブラジルに=(3)=入学試験は「関ヶ原の戦い」

(左から)チリから修行に来たマックスヘッドさんとパラスさん

(左から)チリから修行に来たマックスヘッドさんとパラスさん

 弁護士のルイス・アウグスト・プラド・バヘトさん(61)は、40年以上サッカーを趣味としていたが、7年前に膝を悪くして続けるのを断念。その後はジョギングをしたが、それでは物足りなくなり、新しい趣味を探していたときに二天を見つけた。
 バヘトさんは主に居合術に取り組んでいる。「居合術は形の練習だけで、膝に無理せず稽古できる。自分以外にも年配の生徒はいるよ。正座は辛いけど少しの間なら大丈夫」と笑顔で話した。
 仕事では企業の訴訟案件を担当し、「日々、ものすごいプレッシャーを感じる」と言う。「仕事で心が乱れても、稽古に集中すると落ち着きを取り戻す。忙しくて時間がないときでも稽古場に行く。ただ座って精神を集中させるんだ」と話す。
 岸川さんは二天を「道場ではなく、サムライの寺。禅修行をして精神を高めるのと似ている」と言い表す。「技術の向上だけを目的にしたり、ただ単にサムライに憧れている人には向いていない。そういう人が通おうとしても断ります」と言う。
 岸川さんは毎回の稽古後に15分ほどの講話を行う。「人生は戦争。戦い抜いて幸せになってほしい」との思いから、創立時から今に至るまで続けられている。
 講話のひとつに、入学試験について話したものがある。「入学試験は現代の若いサムライにとって大きな試練のひとつ。すなわち青年期の関ヶ原の戦いであり、多くが敗れ去り、試験に通過した人だけが生き残る。もし受かりたかったら、ガールフレンドとのデートをやめて1年後に帰ってくると伝えるべし」。
 他にも「感傷に浸る時間はない」「初めに立てた目標は忘れてはいけない」「先生が来るまで食べてはいけない」など、サムライの教えや自身の経験、日本の師範たちから聞いた話などを語っている。
 講話の様子は映像化されていて、各国の支部で稽古後に観られている。チリ・サンティアゴの支部から1週間の予定でサンパウロに修行に来ていたラファエル・パラスさん(34)とクリストファ・マックスヘッド(34)さんは、「岸川先生から学んだことが人との接し方に生かされている」と話す。
 パラスさんが二天に通い始めたのは2年前。「初めは『刀を使ってトレーニングするのが面白そう』くらいにしか考えていなかった」と振り返る。稽古を続け講話を聞いて、挨拶や仲間への気遣いの大切さを学んだ。「人とのコミュニケーションが楽しくなった。サンティアゴの支部のメンバーは家族みたいなものさ」と笑顔を見せた。
 マックスヘッドさんは「チリにも大きな剣道の道場がある。でも、試合ばかりで自分には合わないと思った」と言う。「生徒には漫画やアニメの影響を受けて通いだす人も多い。そういった人は初めスターウォーズのように刀を振り回すけど、段々とサムライの精神を理解して、集中して稽古に励むようになるんだ」と話した。(つづく、山縣陸人記者)


□関連コラム□大耳小耳

 二天の岸川さんは講話をまとめた著書『Shinhagakure, Pensamento de um Samurai Moderno(新葉隠―現代武士の心得―)』を2004年に出版。「剣術の技術書ではない。いかに生きるかについて書いた」としており、二天と関わりを持たない一般読者からも反響があったという。10年に、より一般向けに加筆し、16年にはさらに増補改定し上下巻で刊行した。二天によると、これまでに計3万2千部を売上げ、今年は英語・スペイン語版も出版されているという。