二天の事務局員、齋藤みどりさんは「生徒のほとんどがインターネットを見て二天のことを知ります」と言う。今回取材したブラジル人生徒全員が、二天を知ったきっかけを「サイトやフェイスブックのページだった」と話した。二天のフェイスブックのフォロワー数はなんと約28万人。これだけのブラジル人が自ら希望して二天の情報を受け取っている。
多くのブラジル人の関心を呼ぶ理由は、掲載されている動画・写真の多さと、質の高さにある。サイトには試合の様子や岸川さんの講話など200以上の動画が掲載されている。写真と動画それぞれに専属のプロカメラマンがいて、加工や編集が施されている。
フェイスブックに投稿された試合の動画には毎回500近い「いいね」がつき、コメント欄には「かっこいい」「厳かだ」などの感想や「どこで稽古に参加できるの?」といった質問が並ぶ。
岸川さんは「二天の入り口はサムライや日本文化への憧れかもしれません。しかし、講話の動画を見たり、サイトの文章を読むと、『ここなら人生について学べる』と気づく。二天に来る人は普通の生活や他の武道にないもの、自分にないものを求めている」と言う。
二天の生徒はほとんどが非日系人だが、ここ10年で日系人の子供の生徒も増えてきた。「親たちは自分の子供に、日本人としてのルーツを見つめてほしいと思っているようです」と話す。
写真や動画でブラジル人の心をつかむ一方、二天の底流には岸川さんが説く現代社会を生き抜く「サムライの教え」がある。初めは宮本武蔵や刀に憧れていた生徒も、その教えに共感して通い続けている。
岸川さんのこれまで功績は、サンパウロ州5市と他3州で岸川さんの誕生日が「サムライの日」に制定されるなど、国内で広く称えられている。25周年を迎えた今年の目標は国内だけでなく、世界中に古武道の精神を伝えていくことだ。
今月、岸川さんの講和をまとめた著書『新葉隠』の英語版とスペイン語版が刊行された。今年10月には国内外8カ国から生徒が集まる「第1回世界剣術大会」を開催する。大会の目的はあくまで生徒たちが交流を深めることで、勝ち負けにはこだわらない。岸川さんは「子供の部では全員にメダルを与えます。努力して自分に勝ったことを称える」と言う。
岸川さんは、「今でも『最も大切なことは武道ではなく、幸せな人生を歩むこと』という理念は変わりません。むしろ、かつてない物質的な豊かさの中で、情報の海に溺れ、自分をコントロールすることが難しい現代社会だからこそ、サムライの教え、精神が活きるという確信を持っています」と話した。(終わり、山縣陸人記者)