ここ数年、ブラジル政界を語るのに欠かせない話題と言えばラヴァ・ジャット作戦だ。ブラジルのみならず全世界規模で見て最大級の汚職捜査。「このラヴァ・ジャットの存在が政界の未来を明るくしてくれる」。そう信じている人は多く、国民の8割以上が捜査継続を求めている▼コラム子も捜査そのものが開始された2014年からずっと賛成しているし、長い目で国民の倫理観を養う意味で大切なものだとも思う▼だが、現時点において、「ラヴァ・ジャットは政界を浄化したか?」と問われると、「きわめて疑問だ」と答えざるを得ない▼そう思う根拠がある。それは現時点での政党別の下院議員の数だ。ラヴァ・ジャットが労働者党(PT)、民主運動(MDB)、民主社会党(PSDB)のいわゆる「3大政党」への取締りに力を入れている間に、連邦議会内での党移籍などを通じて、前回の下院議員選以降で最も議席数を増やしたのが進歩党(PP)と民主党(DEM)だというのが何とも皮肉だ。なぜなら、この2党こそ、「汚職の温床」と噂される政党だからだ▼連邦議会では先月から4月6日まで政党移籍期間を設けていたが、その結果、PPはPSDBと並ぶ下議数3位タイの48人。DEMが5位の42人になった。DEMは14年の下院議員の当選人数は21人だったからちょうど倍増だ▼マスコミはこの2党の躍進を、「16年のPT政権の崩壊で、中道右派が躍進したためだ」と説明したがる。だが、この2党が元々どういう党か、ということをなかなか語らない。なので、ここで改めて説明したい▼まずPPだが、実はラヴァ・ジャット作戦に関与した政治家の数では、PTやMDBをも上回る。そもそもペトロブラス内での贈収賄工作をはじめた政党もここだと言われている。さらに、この政党の親玉はあのパウロ・マルフ氏。かつて「セニョール賄賂」と呼ばれて国際指名手配もされた。誰もが汚職をしていることを知っていたにも関わらず、86歳になる昨年まで刑務所に入らなかった元サンパウロ市市長だ▼一方のDEMもかねてから「汚職のイメージが強い。2007年に「選挙汚職撲滅運動」(MCCE)という非政府団体が出した、7年に渡る政治家の罷免や告発のデータに基づいた「政党透明度調査」なるものでワースト1位に輝いている▼そんなダーティなイメージの2政党が、政界浄化の波に乗って台頭してきているとは何とも皮肉だ。その理由は何か。ひとつはマスコミだ。新聞や雑誌が好んで批判の槍玉にあげたがる政治家は3大政党の政治家ばかり。その間に、あまり知名度の高い政治家がいないその2政党が水面下で躍進しているのを辛辣に叩こうとしなかったためだ▼そして、PPとDEMが注目されてこなかった理由には、議員の数以外にもうひとつの要素がある。それは両政党が共に「国家革新同盟」(ARENA)を前進母体に持つ政党だということだ。この政党は軍政時代の与党、つまり軍政を支持していた政党だが、1985年以降の社会の民主化の波に飲まれ、時代遅れになっていたのだ。DEMはPSDBの弟分的な政党となり、PPに至ってはPT政権で連立を組むなど、現在ではイデオロギーさえ曖昧になっていた。こんな「弱体化していた軍政保守政党の残党」が政界浄化時に浮上してきたわけだ▼さらに言うと、現在、極右大統領候補として、逮捕服役中のルーラ元大統領に次ぐ2位の支持率を得ているジャイール・ボルソナロ氏も数年前までPPに20年以上在籍していた政治家。つまり汚職の温床と言われる軍政支持政党に長年所属していた人が、10数パーセントの国民に「政界浄化の切り札」のようにあがめられている。これも皮肉な話だ。(陽)