ブラジル弁護士協会(OAB)サンパウロ支部に登録を済ませ、1年が経った。弁護士としての経歴を積むには、机の上での勉強だけではダメ。どんな形であれ、実務に携わらなければならない。
そう思って、以前セントロのJunta Comercial(商業登記所)へ行ったことがある。企業設立や定款改正を登記するのに、必要な書類をきちんと確認しておこうと思ったからだ。
定款自体の書式、書き方、定款で最低限規定しておかなければならない事項は、大学でも習う。ローカル・ルールのようなものがあるのかが懸念材料だった。特に、国籍条項はわたしたち外国人にとっては関心が高い。
弁護士という職業は、顧客との信頼関係の上に成り立っている。だから、必要書類を登記所へ持っていったけど、書類不備で不受理になり、追加書類を求められるようでは、顧客の心を掴むことはできない。登記所への書類提出日によっては、決定事項の効力発生日が異なってくるから、顧客に損失を与えかねないことになる。
だから、書類作成や書類整備には入念に取り組みたいところだ。
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窓口の女性は、「ここ(商業登記所)では、情報提供をいたしておりません。必要な書類を受理して、審査するだけです。疑問があったら、サイトをご覧ください。普通、会計士が所定の手続きをするのでね」と軽く流した。
ムカつくというよりは、あっけにとられた。ポルトガル語の理解力が足りなかったかと思い、質問を繰り返した。回答は、同じ。「会計士へ相談しろ」の一点張りだった。
商業登記所は公的機関なんだから、職務権限の限度内で、来館者の職業に関係なく、情報を提供するものではないのか? 考えれ考えるほど、腹立たしく思った。もっとも一般市民がわざわざ商業登記所まで赴かないのであれば、逆にわたしが一般の立場で、質問をぶつけたことに面食らったのかもしれない。
「はい、分かりました」と素直に引き下がって帰るわけにもいかないから、弁護士という職業を明かしつつ、最低限聞きたいことは聞きだした。先が思いやられる体験だった。社会保障などの手続きも、似たようなものだろう。
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弁護士といえば、法廷で激しく闘う姿を連想してしまいがち。「訴訟のできない(訴訟を知らない)弁護士は、弁護士ではない」と言い切る方も。確かに、訴訟案件が発生したときに、うまい法律議論を組み立てて裁判官に訴え、顧客に有利な結果を引き出すのは、基本的な仕事だ。
と同時に、紛争が発生しないように、予防的な措置やシステムを考案していくのも弁護士の役割だ。特にブラジルのように膨大な数の訴訟案件がある国では、結審するまで相当の時間がかかる。心身の消耗は、計り知れない。
公的機関が十分に機能しているとは言えないのもまた、ブラジルの特徴だ。そこをうまくドリブルして、紛争回避の手段を構築することは、弁護士の仕事の醍醐味かもしれない。
古杉征己(ふるすぎまさき)
1974年広島県生まれ。大学卒業後まもなくの2000年に渡伯。ニッケイ新聞記者を皮切りに職を変えながら、法律家を目指す。労働法・労働訴訟法Especialista(2009年マッケンジー大学)。日本の大学卒業資格がブラジルで認定されなかったため、FMU大学に通い直し、2016年在学中にOAB合格。人文研理事。