「お二人は観光ですか?」流暢な日本語で話しかけてきた。抑用にぎこちなさは全くない。
「ええ王宮を見に来ました」
「あら残念ですね、今、工事のために閉まっていますよ」首をちょっとかしげて気の毒そうに言う。
「いやァ、それは残念。工事はいつ終わるかな?」
「さァわかりませんね。何年もかかるでしょう」優しい笑顔で答える。
どこのホテルに泊まっているのですか? もうどこを見学しましたか、ミャンマーは気に入りましたかとか色々な事を吉田君に話しかけている。彼はまんざらでもない様子で一つ一つに真面目に答えている。
若い時っていいな、健康的で清々しく物おじせず…若さを眩しいように感じながら、私は二人の会話を少し離れて聞いていた。
「いつ日本に帰るのですか?」
「十日先です」
「ウワー残念。もし二?三日の内ならこの封筒を日本に持って行ってほしかったのに…ここには大学入学の願書が入っているんです。急いで送らないともう間に合わないのです」と言って黄色い大型封筒を見せた。そうして中身は願書である事をもう一度言い、今日まで遅れた理由を詳しく述べた。
「どこの大学へ?」
「沖縄大学です」
「ああ、それでは僕の知り合いがあそこの教授をしているから紹介しますよ」彼は親切この上ない。
初めて出会った女性にもう知人を紹介するという。美人は得、得。
「そうですか。お名前は何という先生ですか」
「Y先生です」
「ちょっと待って、手帳に書いておきますから」そう言って彼女はハンドバックから手帳を取り出し、開けて書こうとすると中からぱらりと写真が私の前に落ちてきた。彼女はゆっくりと拾ってから、「これ私の日本の友人です」といって見せた。
そこには三人の日本人の女性が映っていて、写真はひどく傷んでいた。
「へ―日本人の友人を持っているんですか」と吉田君は心から感心したようにつぶやいた。
「そうなんです。こちらはユリコさん。これがサヨコさんとヨーコさん、皆私の家に遊びに来ました。すっごく優しい人たち、私日本人大好きです」大きな目をくるくるとさせて、ニホンジンダーイスキを、ことさら力を込めて言った。
「日本語がお上手ね、どこで習ったの?」と初めて私は口を開いた。
「家の近くのお寺で日本人のお坊様に教えてもらいました。日本語学校はとても月謝が高くて行けません」
そう言って私の方を向いたその胸に、昨日宝石屋で見た親指の爪くらいの赤いルビーのペンダントが下がっている。同じものだ!
ルビーは世界中で年間五〇万カラットしか産出されない(ダイアモンドは年間一五〇〇万カラット産出)この中でも最高のルビーはミャンマー産と言われている。マンダレーから二〇〇㎞の所にモゴックという町があって、ここは世界最高級のルビーの産地として有名な所である。
昨日マンダレーに着くとまずはミャンマーのルビーを見ようと一番に宝石屋に行ってきた私なのである。その中でショーケースから出してもらって首にかけてみた品。今彼女の胸に下がっている。
周りのセンサイな金細工まで全く同じなのはあの店で買ったのだろうか。五〇〇ドルもした!(とはいうものの店の中では安い部類であったが。)