「血の契り(Pacto de Sangue)」――この言葉は、今年後半を騒がすキーワードになりそうだ。
「パロッシ元財相の司法取引証言がパラナ連邦警察に承認された」と4月26日にオ・グローボ紙で報道されたのを聞き、「ラヴァ・ジャット(LJ)捜査陣の反撃が始まった」とピンときた。
覚えているだろうか。昨年9月、元財相はモーロ判事から聴取を受け、こう爆弾発言した。《エミリオ(オデブレヒト社会長)はルーラをつかまえた。ドトール(モーロ判事)、これは何かを贈与するためじゃない。ある契約をするためだった。私はそれを〃血の契り〃と呼んでいる。(アチバイアの)シッチオ、同社からの博物館の建物(ルーラ研究所用地)、20万レアルの(ルーラ)講演料に加え、3億レアルの資金提供を含むものだ》と告白した。
かつてルーラ政権では財相、ジウマ政権では官房長官を務めたPT政権の最重要人物がそう言っている。
契りが結ばれたのは、ルーラ政権最後の2010年12月末。翌年1月からジウマ政権が始まる入れ替わり期だ。
パロッシ証言によれば、ルーラと違ってジウマはオデブレヒト社(O社)と「良い関係」を持っていなかった。彼女が大統領に就任したらペトロブラスやダム工事受注に関する「良い関係」が崩れるのではとパニックになったO社は、任期最後のルーラに〃血の契り〃を結び、今までのO社との関係を引継がせるようにルーラからジウマに説得することをお願いし、ルーラは受け入れた。
その見返りとして、プレゼント群を約束したという。
この証言時にパロッシは司法取引を申し出たが、承認されなかった。それがこの26日にいきなり連邦警察によって承認された。従来のように連邦検察庁が司法取引を結ぶのでなく、連邦警察自らがやった。しかもこのタイミングだ。
というのも、最高裁第2小法廷がO社幹部証言のうち、ルーラ大統領絡みのアチバイア別荘やルーラ研究所に関する疑惑の部分を、サンパウロ州連邦地裁扱いにすると24日に判断した。それを受けて、今回のパロッシの司法取引が動いたように見えるからだ。
ルーラ弁護団からの「アチバイアと研究所はペトロブラスと関係がないから別件扱いにすべきだ」との訴えを受けて、第2小法廷が認めた。LJ捜査陣からすれば、ルーラこそがペトロロン疑惑の中心人物であり、受け入れられない。そこでモーロ判事は26日に《ルーラ元大統領関連のアチバイア別荘刑事事件の案件は、今後もクリチーバで扱うべきだ》(G126日付)と発言した。
そして同じ日に、パラナ連邦警察によるパロッシの司法取引承認が発表されたというタイミングだ。サンパウロ州連邦地裁案件になればLJ作戦という大きな図式から外されるので、たとえルーラが有罪になっても小さな構図から罪状が決められるのでダメージは小さい。もしくはPT案件を最優先するパラナ州よりもサンパウロ州司法界の方が「融通が利く」何かがあるのかもしれない。
というのも、パロッシの証言には、はっきりとO社によるペトロブラスの工事受注の見返りにとして、ルーラに特典を献上する話があり、その一つがアチバイア別荘だ。つまり、この司法取引が成立すれば、LJ作戦の中でルーラは裁かれることになる。
これは大きな図式でみれば、「政治家VS司法」の戦いだ。民政移管後からPT時代までは政治家が圧倒的な権力をもって国を運営してきた。民衆と連動した政治家の力で軍政を終わらせた結果、政界には大きな権限が与えられていた。
司法界も従わざるを得ず、FHC時代には連邦検察庁長官(Procurador-Geral da Republica)が、政治家告訴を次々に葬り去っていたことから「お蔵入り長官」(engavetador geral da republica)と揶揄されていたのは有名な話だ。
大統領告訴などはありえない時代であり、その弊害がルーラ時代にやりたい放題となって吹き出し、メンサロン裁判が皮切りになってLJ作戦が司法反撃ののろしを上げ、ロドリゴ・ジャノー長官がテメル告発2連発を放つまでになった。だが今の最高裁にも政界寄りの判事はおり、そこの部分とのせめぎあいが起きている。
今回の第2小法廷のような判断がいつか出ると予想して、パロッシ司法取引を〃ジョーカー(奥の手)〃としてとっておいたのかも。
ただし、パロッシの件も最高裁の承認が必要だ。パロッシは証言の中で「LJ作戦を頓挫させるための工作をした」と明言している。まだまだ政界洗浄の行方は予断を許さない状況だ。(深)
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