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サンパウロ州知事選に響きかねないドリアの失言

ドリア氏(Marcos Corrêa/PR)

ドリア氏(Marcos Corrêa/PR)

 1日のサンパウロ市セントロの、不法占拠者が住み着いた24階建てのビルの火災による倒壊はブラジル全土を驚かす大ニュースとなった。そのタイミングで、10月のサンパウロ州知事選に臨むジョアン・ドリア前サンパウロ市市長が問題発言を行なった。彼はこの日、リベイロン・プレットの農業系のイベントで、「あのビルは犯罪組織が不法占拠していた」と語ったのだ。同氏いわく、「あのビルの不法占拠の撤退を何度か試みたが失敗に終わった。あの辺りは麻薬取引が行われている中心でもある」と語ったのだ。この事実が新聞のネット記事にあがると、市民はたちまちドリア氏に不快感を示す言葉をネット上に連ねた▼「不法侵入地の問題は、市における貧富の格差の問題なのに、それを犯罪組織のせいにしてしまうとは」。このような意見が目立った。これまでもこうした不法侵入の問題は長年続いてきているが、市民感情としては、住宅を持つ生活力のない人々に同情的な意見が多い▼しかもドリア氏の立場が悪いことに、その後の報道でも、倒壊したビルに犯罪組織が住んでいたと報じる記事は出ていない。また、ドリア氏による説明も、持論を証拠づけるようなものではなく、あくまで推測の域を出ないもので終わっている▼「ああ、また、やってしまったか」。それがここ最近のドリア氏に関してコラム子が抱いた率直な感想だ。2017年に鳴り物入りで市長となり、圧倒的な支持率の高さで「企業家からいきなり大統領候補か」「次のトランプか、マクロン(アルゼンチン)か」などと1年も立たずしてもてはやされたドリア氏だが、早くも「今は昔」。市長任期を1年目にもかかわらず、民主社会党(PSDB)の大統領候補になったわけでもないのに、他州や外国で自分を売り込むプロモーション活動に没頭。その間、市政での評判や期待の声もパッタリとやんだ▼そして、その一方でドリア氏は、公立校の給食に、「賞味期限が迫った材料で作る非常食」として知られるファリナータを取り入れようとしたことで物議を醸し批判も浴びた。この騒動の最中には、自身が企業家だった時代に出演したリアリティ・ショーで「貧しい人に食事マナーを教えたい」と語った一般番組参加者に対し「貧乏人に食事マナーが必要となるような人生は送れない」と冷たく言い放ったビデオが流出し問題となった▼ドリア氏は痛烈なルーラ元大統領や労働者党(PT)批判者で、それが右傾化するネットユーザーに支持されていた理由でもある。だが今回の騒動はドリア氏自身が、あたかも自分を支持するネットユーザーに影響されたような物言いに皮肉にもなってしまっている。左翼の人のことを犯罪者やテロリストと、その人たち自身がそうであるかどうかもわからないのに結び付けてからかうのはブラジル版のネトウヨの人たちにはよくあることだが、ドリア氏はそれに同調してしまった。今回の件に関して言えば、極右大統領候補のジャイール・ボルソナロ氏の息子で下院議員のエドゥアルド氏も全く同じ発言をして問題となっている▼なお、ブルーノ・コーヴァス現サンパウロ市市長は「今は誰が悪いとかを言っている場合ではない」と語り、サンパウロ州知事選で争うことにもなるマルシオ・フランササンパウロ州知事は「立ち退きを法的に徹底させ、占拠住人たちを施設に移動させる努力が足りないからこうしたことになる」と分析している。(陽)