混戦と言われ、「誰が勝つかわからない」と言われている今年の大統領選だが、ここに来て、大きく動きつつあるとコラム子は見ている。有権者の動向でこそないが、少なくとも政界関係者の流れはシロ・ゴメス氏(民主労働党・PDT)に向いている▼元々、この選挙はシロ氏には有利だと言われていた。それはルーラ元大統領が裁判有罪で出馬がままならない場合、ルーラ氏に投票したいと思っていた人の票が行きやすいのがシロ氏だと思われていたからだ。それはシロ氏がルーラ政権の閣僚の頃から同氏と強い友好関係を築いていたことが知られていたからで、それはすでに世論調査のシミュレーションの数字などでも証明されている▼そこに加えて、彼の元所属政党のブラジル社会党(PSB)が人気の元最高裁判事ジョアキン・バルボーザ氏の出馬断念でシロ氏へ合流する可能性が強まったほか、議会での影響力の強いロドリゴ・マイア下院議長(民主党・DEM)が自らの大統領出馬をあきらめ、自分を支持していた政党もろともシロ氏に合流するかもしれないというのだ▼このPSBやマイア議長の話が実現すれば、シロ氏の選挙キャンペーンでの持ち時間はかなりの長さになる。民主社会党(PSDB)のジェラウド・アウキミン氏はテメル大統領の民主運動(MDB)との接近が囁かれているが、テメル氏が不人気な上に他の連立与党がマイア氏と共にシロ氏支持になびけばかなり不利になる。一方、人気のジャイール・ボルソナロ氏(社会自由党・PSL)やマリーナ・シウヴァ氏(REDE)は連立の望めない小政党ゆえにキャンペーンでは不利だ▼この状況でもしルーラ氏の労働者党(PT)がシロ氏と合流して副候補を出してシャッパでも組めば、大げさな話、「王手」も夢ではない。実際、「PTのルーラ氏の代理候補のひとり」と目されるジャッケス・ヴァギネル氏は「シロ氏の副候補」の可能性にまんざら悪印象を抱いていないことも明かしていた▼だが、「シロ氏とPTの連立」には大きな障害がある。それがグレイシ・ホフマン党首を筆頭とした、PT内の硬化した勢力だ▼グレイシ党首は既にシロ氏への連立をきっぱりと否定している。これには二つの見方がある。ひとつは「今、シロ氏との連立を進ませてしまえば、ルーラ氏の出馬を諦めたのと同義となってしまう」というもの。ルーラ氏の無罪を信じている〝信者〟も少なくない中で、高等選挙裁判所が最終的な出馬の無効を認める前に断念するのでは、ルーラ氏に信者としての顔が立たない、というものだ▼だが、グレイシ氏らの意向はこうした「建て前」から来るものとは違うような気がコラム子にはする。「天下のPTが他党の副なんかにはなれない」というプライドがまずひとつ。さらにここ最近、PTそのものがブラジル共産党(PC DO B)や社会主義自由党(PSOL)、セン・テットなどと組むことを増やしていくうちに急進化し、中道から離れて行っているのも気になるところだ▼そんなPT内の空気を鶴の一声で変えられるとすれば、それは獄中にいるルーラ氏本人に他ならない。ルーラ氏がどういうブラジルの姿を望むのか。全てはそれにかかっている。もっともルーラ氏は自身の政権時代に、後のテメル政権の財相でもある、本来保守派のエンリケ・メイレレス氏を長きに渡り財相につけ、さらに最近でも、反MDBの立場から、本来右派のはずのマイア氏の下院議長当選に一役買うなど、臨機応変な柔軟ぶりも見せている。とはいえ、獄中から政界を牛耳る〝院政〟を敷くのは勘弁してほしいが。(陽)