11日、10月の大統領選挙における極右大統領候補ジャイール・ボルソナロ下院議員が、10日にアメリカCIAの資料の記述から明らかになった、ブラジルの大統領が政治犯粛清に承諾を出していた事実に関して仰天発言を行い、問題視された。
この件は、CIAの機密事項から外れた資料の内、CIAのディレクターだった人物が当時のキッシンジャー長官にあてたブラジルに関する報告書に、軍政時代の1974年に、時のガイゼル大統領が、前代のメジシ大統領に引き続き、政治犯の粛清を行うのを了承したという事実が記載されていたのが見つかった、という報道だ。
さらに悪いことに、ガイゼル氏は粛清を「渋々認めた」ことになっていたが、後に同氏をついで軍政時代最後の大統領になったフィゲイレード将軍(当時)は、粛清を積極的に進めていた、という記述まであった。
これはブラジル国内の右派、極右派には痛い報道だ。なぜなら近年、2016年に13年続いて来た左派の労働者党政権の汚職腐敗にいらだったことから右傾化していた国民勢力が、軍を「正直」「国益を守る存在」としてあがめる傾向に水を指したためだ。
軍事政権時代(1964―85年)の、特に70年代に数百人規模で行われたとされる粛清に関しては、軍部が長い間、「そのような事実はない」と頑なに否定してきているものだ。だが、数々の証言や物的証拠、遺体発見などで否定は難しくなっていた。そこにこの報道が重なったのでは、「軍は正直」のイメージが崩れてしまう。
その報道に対し、退役軍人出身で、現在大統領選挙の世論調査で支持率2位のボルソナロ氏が反論を試みたが、これが驚くべき論調だった。
ボルソナロ氏は粛清を「子どものしつけ」に例え、「聞き分けのない、自分の子どものお尻を叩いて、後で後悔した気にならない親などいないだろ」という言葉で、当時の大統領の気持ちを代弁し、「それより、当時の左派の革命軍とやらの犯罪はなぜ報じないのだ」と反論した。
だが、軍が死亡の証拠をもみ消そうとまでした刑務所内での殺害は、今回のレポートでも「1973年には104人を粛清した」との記述が見つかったほどのもので、「子どものお仕置き」という言葉が適切なものかは微妙なものだった。
この発言はネット上で強い反感を招き、炎上した状態になったため、熱心な右派の人々が必死になって火消しの反論を行う姿が見られた。
ボルソナロ氏は過激な女性、同性愛、人種(黒人、ユダヤ、原住民など)差別の連続でネット上の人気者となり、労働者党政権が推し進めてきた「マイノリティの人」を援助する政治を「腐敗政権の癖に偽善的だ」とする人々の共感を集めてきた。その影響で、10月の統一選挙では71人の軍人が出馬を表明するなど、軍が脚光を浴び始めていた矢先の今回の報道だった。(11日付エスタード紙電子版より)