四人で一〇分くらい歩くと大きなレストランに着いた。中はもうお客でいっぱい。よっぽど安くておいしい店にちがいない。
任せるからというと、三人でキャッキャッと騒ぎながら注文して、四人分がたくさんの大皿に山ほど盛られてきた。
私に気を遣いながら三人は目をキョロキョロさせて頬張る。若い人は気持ちいいなと思いながら私も食べた。トウモロコシは甘くておいしい、鶏のから揚げ(地鶏だろうか、サンパウロではこんな味のあるのには出会わない)油で揚げたじゃがいも、何もかもとてもおいしい。それ以外にもたくさん並んだ。
一人で食事した昨日の夕食に比べるとなんておいしく豪華なのだろうか。
私が一言いうと三人は手を止めてじっと聞き入ってくれる。私が退屈しないように誰かが話しかけてくれる。お世辞を言ってくれる、とても若々しいとか、教養があるとか、知識が多いとか言われると、体中をくすぐられているような快感。我が人生で初めての「持ち上げられた」経験だ。
竜宮に行った浦島太郎もこんな風にモテて、至れり尽くせり、かゆい所に手が届くようにチヤホヤされたにちがいない。帰りたくなかったハズだ。
楽しく嬉しく、おかしく、美酒に酔った気分とはこんなのだろうか。なるほど政治家議員先生などはこんな気分をいつも味わっているのかしら…コタエられないはずだ。賄賂を使ってでもなりたくなる気持ちがよく判る。
どうやら皆は私が大金持ちだと思っているらしい。私は鷹揚に微笑み、泰然自若。「もっと食べたいものは?」などと聞く。
十二分食べた。皆ニコニコと幸せそう。それを見ている私はもっと幸せ。会計は四人分で六ドルだった。
夕べ一人で食べたホテルの夕食は一二ドルだったのに。あまりの安さに思わず、「明日も一緒に食べましょう」と言ったほどだった。
「もっとお友達を連れて来ていいわよ」と「にわか大金持ち夫人」の私は言った。彼女たちは歓声を上げて、「ほんとにいいの? 弟を連れてきたいけどいいかしら」「いいわよいいわよ、連れていらっしゃい、みんな来て」鷹揚に答える私。
外に出ると冷たく澄んだ空気。星はまるで出来たてほやほやみたいに空いっぱいに光り輝いている。白く光った道を四人で腕を組んで、歌を歌いながら歩いてホテルに帰った。
翌日は六人来た。今度はもうちょっと違う食べ物がいいんじゃあないの、別なところに行こうと言ったが、ここが一番安くて美味しくて、量が多い所だという。
夕べと同じような品を注文、二人の男性は遠慮深くてお酒は飲まず、インカコーラという飲み物を注文していた。
食べながら、今日は六人が昨日と同じように、何を言ってもごもっともと相づちをうち、下にもおかず、チヤホヤともてなしてくれる。一緒に食事してくれるだけでもありがたいのに、その上お世辞まで言ってくれる。
私が話せばみんなが耳を傾ける。みんなニコニコと幸せそうな顔をして、喜んでくれている。
私は気分が大きくなり、夕べは偽金持ち夫人だったが、今日は本当に取り巻きを連れた大金持ち夫人になった気分だ。「もっと食べて」「デザートを取りましょう」「お酒はいかが?」鷹揚にすすめる。しかし、お世辞に囲まれた経験の無い私は、次第にバラ色の言葉も耳に飽き飽きし、ばかばかしくなってきた。
「持ち上げられ疲れ」が始ったのだろうか。ああシンドイ議員先生のように神経が図太くないからか、簡単に天井くらいまで一直線に舞い上がって、たったの二日でまっすぐに落下。
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