ブラジル音楽界最長老クラスの大ベテラン女性歌手、エルザ・ソアレスが18日、新作アルバム「デウス・エ・ムリェール(神は女)」を発表。その年齢の次元を超越した刺激的なサウンドが話題を呼びそうだ。
エルザは公称では1937年生まれの80歳。だが、かねてから年齢詐称説があり、ブラジルのフォーリャ紙の報道では87歳と呼ばれている、いずれにせよブラジル最古参の歌手のひとりだ。
彼女のイメージは、デビュー間もない60年代を覚えている人には「正統派のサンバ歌手」、その後に、ややアメリカのソウル・ミュージックを受けたか、といったものだった。
だが、60代を超えて製作された2002年のアルバム「ド・コシックス・アテ・オ・ペスコッソ」でヒップホップを取り入れてから、表現がかなり大胆なものとなった。
それがひとつの大きな形となって現れたのが、2015年に発表された前作「ア・ムリェール・ド・フィン・ド・ムンド(世界の終わりの女)」だった。このアルバムでは、ひずんだギターに、ヒップホップやエレクトロのビートを導入した、およそ70代の歌手が作るとは思えない実験的なサウンドを展開。このアルバムは、この年のローリング・ストーン・ブラジルの国内アーティスト年間最優秀アルバムに選ばれたのみならず、国内の多くの音楽賞で様々な賞を受賞。翌年にはアメリカをはじめ、世界的に発売されて、アメリカの世界的な音楽批評サイト「ピッチフォーク」から推薦作に選出されたほどだった。
それから今作までの間、エルザは積極的なコンサート活動のみならず、ジウマ前大統領の罷免に対する抗議活動も行った。60年代に、ペレと並ぶサッカーの名選手だった彼女の夫、ガリンシャと共に、軍事政権を嫌って欧州に亡命した行動派の彼女は、貧困者や黒人に対して寛容な政策を取る労働者党の大統領が罷免という形で政権を追われるのに断固反対したのだ。
こうした経験は、今回のアルバムにも生きている。「前作は強くて美しいアルバムだと私も思うのよ。でも、重くて、暗い感じだったじゃない。だから、開かれた明るいアルバムを作ったのよ」と語る。
その言葉通り、サウンドはより熱量が表向きに発散されたものだ。基本線は、ひずんで時折不協和音も出すエレキギターと、太いベース音にシンセサイザーと、さしずめ「パンクとジャズとエレクトロの融合」とでも言うべきものだが、そこにより複合的な打楽器と、力強いホーンを加えた、彼女本来のサンバのエネルギーを加えたものとなっている。
そして、アルバム冒頭で彼女はこう歌う。「いろんな国が私を形にはめようとしてきた。私のしゃべろうとすることを黙らせようとしてきた。でも、この国は私が話すための場所よ」。
そこから彼女は、ブラジル社会の信仰への不寛容さへの反抗や、性の自由、政治家や権力者に対する批判、暴力の多発する最近の世相を斬るなど言いたい放題だ。
「私は黙ったことなんかないし、言ったことに後悔したこともない。私はこの国の人間だもの。ここに生まれてきたのだって、私のせいじゃないし」とエルザは語っている。
フォーリャ紙の文化欄でも本作は満点の五つ星を獲得。ブラジルでは店頭に本作のCDも並ぶ。日本でも、アップル・ミュージックやスポティファイなどのストリーミング・サービスで聴くことが可能だ。(18日付フォーリャ紙より)