22日、ブラジルの大御所歌手のジルベルト・ジルが7月4日に行われる予定だったイスラエルでの公演をキャンセルした。その理由は、「微妙な社会情勢」と説明された。
同国では、1948年にイスラエル独立宣言が行われたのと同じ5月14日に、米国がエルサレムに大使館を開設したことで、パレスチナ自治区のガザ地区とイスラエルの国境で、パレスチナ人とイスラエル軍が衝突。同軍が発砲したことで、65人のパレスチナ人が死亡、2700人の負傷者が出ている。
だが、ジルの公演キャンセルの背景には、音楽界や映画界で世界的に広がっている、「イスラエル政府に対する抗議」の意味を込めたボイコット運動がある。
それは2005年にはじまったBDS運動(ボイコット、投資徴収、制裁)という、イスラエルに対する国際的な抗議運動からはじまっている。イスラエルが進めるパレスチナ人自治区の領土侵入や、パレスチナ人に対する差別、虐殺をやめない限り、イスラエルに制裁を加えるというものだ。
その動きが音楽にも反映されはじめたのは、2014年のガザ戦争からだ。当時は、パレスチナ側の死者や負傷者が圧倒的に多く、イスラエル側によるパレスチナ自治区侵攻によって多発した暴力事件や、パレスチナ難民の大量発生などが国際的に問題になっていた。
音楽界ではイギリスのロックバンドの大物、元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズが指揮を執り、イスラエルで公演を行おうとするミュージシャンに公演中止を呼びかけ続けている。
これに関しては、「為政者が嫌いだからといって、その国の音楽ファンを憎むようなことはしたくない」とする人たちも少なくなく、賛否両論が分かれている。実はジルベルト・ジルもそのひとりで、2015年には長年の盟友カエターノ・ヴェローゾとのイスラエル公演がウォーターズによって反対されたが、予定通り公演を行った。
だが、イスラエルでの現状にショックを受けたカエターノは、帰国後、「もう、あの国に戻ることはない」と発言していた。
その後も、イスラエルで誰かの公演があるたびに、その人が公演を行うか否かがその都度注目されるようになっていた。だが、ここ数カ月間はイスラエルとパレスチナの関係がとみに緊迫しており、女優のナタリー・ポートマンや歌手のポール・マッカートニーが同国で行われるセレモニーへの出席を拒否した。
それに輪をかけたのが今月14日に行われたイスラエル軍の発砲で、世界のミュージシャンたちがこれまで以上に次々とイスラエルに対するボイコットを発表していた。(22日付G1サイトより)