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JH=「香と味」展、9月末まで=香りを〃聞く〃文化の粋=上田さん「日本の精神性を感じて」

嗅覚を頼りに桜の香を探す迷路

嗅覚を頼りに桜の香を探す迷路

 日本独特の香りや味の文化ついて紹介する『香と味(Aroma & Sabor)』展が、今月5日からジャパン・ハウス(Avenida Paulista, 52)2階で開催中。嗅覚を頼りに桜の香りを見つけてゆく空間藝術「嗅覚のための迷路」を創作した、香りの藝術〃嗅覚アート〃作家・上田麻希さんが6日、講演した。香りを楽しむ日本の伝統文化に根ざしつつも、現代藝術との融合を図った上田さんの作品に注目が集まった。

上田麻希さん

上田麻希さん

 本展で設置される「嗅覚のための迷路」では、天井から吊るされた数十本の瓶の中から、桜の香りの源を嗅ぎ分けて見つけてゆくという、まさに、香りで遊ぶという現代版「香道」だ。
 上田さんは「お花見のために一番いい木の下の絶好の場所を押さえるのが新入社員の仕事になっている」と語り、「この展示は、お花見を隠喩している。桜の仄かな香りを楽しむために1年を待ち侘びる日本人の精神性を感じ取ってもらえれば」と期待を込めた。
 本展は「嗅覚と味覚の関係」―どのように人間は味を認識しているか、といった科学的知見から説明された展示から始まり、竹、檜、緑茶など日本特有の香りの体験、高砂香料工業㈱の協力による、無着色にした梅、メロン、醤油、山葵などの味の飴の試食コーナーなども設けられており、体験的に理解を深められるよう構成されている。
 上田さんは、05年から嗅覚アーティストとして活動を始め、蘭王立美術大学で世界初の同コースを立ち上げるなど、その道の第一人者だ。日本古来の香りを楽しむ文化が、上田さんの作風にも影響しているという。
 上田さんによれば、匂いに対する接近法は日本と西欧では明確に異なるという。西欧において「○○の匂い」と香りが特定されるのに対し、日本では「ふんわりした捉えどころのないもの。それを通じて季節を感じるなど隠喩となっている」と指摘する。
 同館広報によれば、「旨み」や「香道」をテーマとしたワークショップなど、本展テーマに関連した企画を多数計画しているという。本展は9月30日まで。


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 〃嗅覚アート〃作家・上田麻希さんによれば、香りを抽出する実験をしている際、味噌汁の蒸留水を嗅いだある蘭人に「洪水の後に地下室が濡れて腐った匂いのようだ」と言われたことで、「香りに意味を持たせてはいけない」とハッとしたのだとか。それ以来、上田さんの作品は、他の香りに置き換えても、コンセプトが変わらないものとなっており、本展の「嗅覚のための迷路」もどのような香りに置き換えても、楽しめるものとなっているようだ。「西欧の作家は、香りに意味を持たせるのが一般的。でも、香りの感じ方は文化により違うもので、それぞれが決めていいものだと考えている」とのこと。「香りの道」も奥が深い。
     ◎
 上田さんによれば、「におい(丹穂い)」の語源を辿ると、丹は「赤色」、穂は「湧き出る」ことを示しており、「元来はオーラのようなイメージ。空間の美しさを表わしていた」とのこと。古語では「にほい」は色艶、美しさなど視覚的なものを感じ取ることを意味する。平安時代の貴族に親しまれた「薫物合わせ」から「香道」へと発展した歴史に触れて、「高価だった香りが宗教や実用目的で使われるのに対して、香りで表現された主題を鑑賞しその世界に遊ぶという文化は、世界でも日本だけ」と特異性を強調。故に、香道では、香りを『臭ぐ』ではなく、『聞く』と表現されるとか。