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W杯はここからが佳境!=ブラジル代表の1次リーグ総括、課題と今後の展望=サンパウロ市在住サッカージャーナリスト 沢田啓明

セルビア選で調子を取り戻しつつあるネイマール(Lucas Figueiredo/CBF)

セルビア選で調子を取り戻しつつあるネイマール(Lucas Figueiredo/CBF)

 ブラジル代表は、ワールドカップ(W杯)の1次リーグを2勝1分(得点5、失点1)の首位で突破した。決勝トーナメント1回戦(ベスト16)では、7月2日、F組2位のメキシコと対戦する。
 セレソンは、W杯南米予選を圧倒的な強さで首位で突破し、その後の欧州遠征でも5勝1分と好調で、大会前、ドイツと並んで優勝候補筆頭に挙げられていた。
 しかし、W杯は予選、強化試合と全く異なる。厳しい予選を勝ち抜いた32カ国の選手たちが、母国の期待と誇りを担って死に物狂いでプレーする。普段ならとてもできないギリギリのプレーを随所でみせ、それが驚きのドラマを生む。
 1次リーグ初戦で堅守スイスと引き分けたが、これは想定内だった。優勝を狙う国は決勝までの7試合を見据えてコンディションを整えるので、初戦に100%の状態では臨まない。
 問題は、次のコスタリカ戦。初戦で勝ち点3を取り損ねたので、この試合は絶対に勝たなければない。ところが、圧倒的に攻めながら、相手の超守備的布陣(5―4―1)と旺盛な闘志の前にゴールを割ることができない。エースのネイマール(パリ・サンジェルマン)がいつもなら簡単に決めるチャンスを立て続けに外して苛立ち、それが他の選手にも伝染してチーム全体がおかしくなっていた。
 しかし、追加タイムに入ってからMFコウチーニョ(バルセロナ)がようやく相手ゴールをこじ開け、ネイマールも右からのクロスを押し込み、2―0で勝った。
 試合後、ネイマールがピッチに膝まづき、両手で顔を覆って号泣した。2月末にクラブの試合で右足首を骨折し、手術を長いリハビリを経てこの大会のために努力を重ねてきた。過去4カ月間のつらい思い、この試合で思うようなプレーができなかった焦り、散々苦しんだ挙句にやっとゴールを決めた喜びが胸に溢れたのだろう。
 W杯1次リーグで、実力差がある相手に楽々とゴールを重ねて大勝するのも悪くはない。しかし、それでは後で強豪と対戦したときに選手たちが精神の安定を失い、力を出し切れないまま敗れ去ることが少なくない。苦し抜いた末に主力選手の活躍で勝利を手にしたことは、チームにとって大きな意味があった。
 1次リーグ最後のセルビア戦は、ネイマール、コウチーニョらがまるで憑き物が落ちたように伸び伸びとプレーし、2―0で快勝。チームの調子がぐんと上がり、選手たちが自信を手にしたことが見て取れた。
 3試合を通じての最大の収穫は、ネイマールの故障が完治しており、少しずつ調子を上げてきていること。まだベストの状態ではないが、決勝トーナメント以降はもっと良いプレーができるはずだ。
 攻撃陣は、ネイマールを補佐すべきコウチーニョが2得点と好調だ。21歳のCFガブリエウ・ジェズス(マンチェスター・シティ)がまだ得点がなく、控えの切り札だったMFドグラス・コスタ(ユベントス)が故障で戦列を離れているのが痛いが、全般的な出来は悪くない。
 守備陣は、ミランダ(インテル)、チアゴ・シウバ(パリ・サンジェルマン)の両CBが安定しており、アンカーのカゼミロ(レアル・マドリード)も対人守備の強さを発揮する。
 ただし、SBに故障者が相次いでいるのは懸念材料だ。大会前に右SBの絶対的レギュラーだったダニエル・アウベス(パリ・サンジェルマン)が故障で招集外となり、その代役ダニーロ(マンチェスター・シティ)も初戦で故障。コスタリカ戦からファグネールがプレーしており、ここまではまずまずのプレー内容だ。左SBは、やはりレギュラーのマルセロ(レアル・マドリード)がセルビア戦の開始早々に故障した。それでも、交代出場したフィリペ・ルイス(アトレティコ・マドリード)が攻守両面でチームに貢献したのは不幸中の幸いだった。
 今後の課題はいくつかある。
(1)まだ本調子ではないネイマールがいつ爆発するのか。
(2)このチームの持ち味である組織的なプレーをさらに研ぎ澄ませることができるのかどうか。
(3)今後、さらに故障者が出ないかどうか。
(4)故障で戦列を離れている選手のうち誰がいつ復帰できるのか。
 いずれも、目標である優勝を達成するための重要なポイントだ。
 決勝トーナメント1回戦では、もし前回大会の覇者ドイツがF組2位で勝ち上がればブラジルと対戦するところだった。韓国がドイツを破って敗退させてくれたおかげで対戦を回避できたのだが、2014年W杯準決勝での屈辱的な大敗のリベンジする機会が失われたのは残念でもある。
 ともあれ、ここから先は勝つか負けるか。引き分けはない。ドイツのまさかの敗退を肝に銘じて一層気を引き締め、ブラジルらしく高度なテクニックと豊かな創造性を存分に発揮し、一戦一戦、全力で闘ってもらいたい。
 セレソンが4年前の屈辱を晴らせるのか、あるいは再び悔し涙に暮れるのか。W杯はここからが佳境だ。