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■ひとマチ点描■フラビオ・シローと藤田嗣治

若き日のフラビオ・シロー(flavio shiro - Miguel de Almeida – 2008より)

若き日のフラビオ・シロー(flavio shiro – Miguel de Almeida – 2008より)

 ブラジルの抽象画家、フラビオ・シロー(Flavio-Shiró)の本名は田中フラビオ駟郎と言う。本人は覚えていないが、幼少のときブラジル名をつけることになり、5つの候補の中から指差したのが「フラビオ」だったという。
 アーティスト名については「『Flavio』とか『Shiró』とか呼ばれることがあるけど、『Flavio-Shiró』でひとつ。フランスの写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンの『Cartier-Bresson』と同じ。ブラジルでは馴染みのない名付け方だね」と話す。アーティスト名を使い出した50年代、芸術の中心地といえばパリで、憧れもあった。
 53年にパリに渡った後、20年代からフランスで名声を得ていた画家・藤田嗣治に会っている。フラビオ・シローが出展したグループ展に藤田が現れ、フラビオ・シローの作品の前で足を止めた。近づいたり離れたりして見入っていたという。
 「あの独特なおかっぱ頭ですぐに藤田嗣治だと気づいた。でも初対面だったし彼はあまりに有名だから声をかけられなかった」と述懐する。後に別の機会に言葉を交わし、パリ滞在中たびたび交流した。
 今となっては68年に没した藤田と同じ時代を生きた芸術家はそう多くない。今年90歳を迎えるフラビオ・シローだからこその貴重な証言だ。(陸)