5日に各政党の党大会が終わったことで、各大統領候補の連立や、8月31日からの政見放送の時間が決まった▼今回の大統領選は、ラヴァ・ジャット作戦、ジウマ前大統領の罷免の後の初の大統領選挙ということもあり、本来なら「政界改革への期待」が高まるはず・・のものだった▼だが、ふたを開けてみると、連立と政見放送の持ち時間のトップはジェラウド・アウキミン氏で、追うのルーラ氏、もしくはハダジ氏という、過去6回続いてきた「民主社会党(PSDB)対労働者党(PT)」の図式が続いていることになる▼ブラジルの場合、この二大政党に、議員の数ならトップの民主運動(MDB)がどちらにつくか、という「三大政党」のバランスで成り立ってきた。今回の選挙は、それが長年定着したことでできた綻びを修正し、新しい政治体制を作るチャンスだった。果たして、事前支持率の高い「人気候補」は、これを変えるために、果たして今日まで何をやってきたか▼もっとも意識的だったのはシロ・ゴメス氏(民主労働党・PDT)だった。同氏は「中道左派」という立場を生かし、「新しい左派のリーダー」になると共に、「中道右派」の政党をもひき付け、さらに、常に権力側の側について来たことで汚職の温床にもなっていたMDBを排除するという方針によって、新しい勢力地図を作ろうとしていた。事実、一時は連立形成争いをリードしていた印象さえあった▼だが、「左翼の新リーダー」の座を巡ってPTに敗れ、さらには中道政党勢力「セントロン」とは経済政策をめぐって意見が合わず、彼らをアウキミン氏に奪われてしまった。巨頭二つに真正面から立ち向かおうとしたが、跳ね返される形となってしまった▼一方、マリーナ・シウヴァ氏(REDE)の場合はどうだろう。元来、かなりの潔癖ぶりで知られる彼女は、PT出身でありながらもPTの息のかかった左翼政党を避け、さらにセントロンに関しても「MDBと基本は同じ、権力側につくだけの烏合の衆」とばかりに支持を求めようとしなかった。その結果、連立は、小政党の緑の党(PV)との二党のみ。「ブラジルの政治をクリーンに」というモットーに関して言えば、彼女に最も説得力があることは間違いない。その点での有権者のアピールは強いだろう。だが、理想が高すぎてついていく人が極端に少なく、「勢力」そのものが極めて小さい。これについては、はじめて第3位に入った2010年の選挙から変わっていない▼そしてジャイール・ボルソナロ氏(社会自由党・PSL)はどうだろう。彼の場合、「極右」という看板をぶちあげて、新しい勢力を作れる可能性ならあった。事実、中道や右派の政党にはひそかに彼のファンが存在し、彼らを引き抜くことで新党を作る、くらいのことは彼が「やり手」ならできた。過激言動の人気を背景に、勢力として拡大させることもできたかもしれない▼しかし、ふたを開けてみれば、新党を作るどころか、既存の零細政党に移籍するほかなく、連立を望めど、他党は党内の多数決の原理で承認を得られず、「ひそかなファン」は移籍もしてこず。その結果、組んだのが労働刷新党(PRTB)という、ブラジルの選挙を長く見ている人なら「キワモノ」的零細政党として知られている党だけの連立とは。LGBTへの問題発言をテレビの生放送で行なって罰金刑を受けた党創設者に、テメル政権への軍事介入に肯定的な発言で軍内部を左遷された同党からの副候補。大統領選を勝ち抜くことを期待されている人が行なう交渉とは、とても思えない▼少なくとも現時点で政界刷新が期待できそうな勢力は乏しく、既存の政界体制が崩れなかったのは、ある意味仕方がなかったか。(陽)