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なぜかネット上ではおとなしいブラジル左翼

ルーラ氏の出馬許可を求めて抗議行動をする人たちFoto Lula Marques

ルーラ氏の出馬許可を求めて抗議行動をする人たちFoto Lula Marquesルーラ氏の出馬許可を求めて抗議行動をする人たちFoto Lula Marques

 15日、労働者党(PT)が、服役中という状況の中、ルーラ元大統領の大統領選への出馬登録を強行した。常識で考えれば異例とも言える行為だが、ブラジルでは法律上、出馬が有効か否かの判断が行なわれるまで、この行為自体は合法だ。さらに現在なおも支持率1位ということもあり、このところ、ルーラ氏の支持者たちは熱心な出馬許可嘆願運動を展開。中には「ハンガー・ストライキで気絶する」といった人まで出ているという▼このように、ルーラ氏は「信者」の熱烈な応援に支えられている。だが、不思議なことに、こうした活動では熱心なのに、彼ら信者は、ことネットになると非常におとなしい。フェイスブックなどのフォーリャ、エスタードなどの現地紙、ヴェージャなどの週刊誌のニュースのコメント欄で、彼ら側からの意見が出てくることはほとんどない。目下のところそれを独占しているのは、極右大統領候補のジャイール・ボルソナロ氏の信者による、いわゆる「ブラジル版ネトウヨ」の人々だ▼しかも、これは今回の大統領選に限ったことではない。前回14年の大統領選でも、こうしたコメント欄を独占していたのはやはり反PT派の人たちで、PT支持者側からの発言は「決選投票前にやや増えた程度」といったもの。当時、「ネット上の反応だけだと(当時の対抗馬の)アエシオ氏が7、8割で勝っているように見える」とコラム子は見ていたが、ふたを開けたらジウマ氏が勝利。「わからないものだな」と思ったものだった▼それ以降もPT信者の人たちがネットで騒いだのは、ジウマ氏の罷免審議の下院投票が行なわれた前くらいのもので、それも彼らがパウリスタ大通りなどの街頭で展開する抗議行動に比べたらおとなしいものだった▼元来、「ネトウヨ」なる言葉が存在し「ネトサヨ」という言葉になじみがないように、ネットの世界においては思想的に右寄りの人の方がにぎやかな傾向はある。ブラジルの場合も、ボルソナロ氏のような極右派が台頭してきたのはほんのこの2、3年くらいの話で他の国に遅れて登場した観もあるが、短期間のあいだでネット上の世論を独占しつつある▼ただ、ブラジルの場合、こうしたネトウヨ勢力の対処になれていないせいなのか、ネット上で左翼が言い返す場面が、他の国と比較してみても随分と弱い印象がある▼コラム子は仕事上、米国、日本のニュースサイトからのニュースもフェイスブックを通じて見ている。例えば米国だと、トランプ大統領絡みのニュースでは、少なくとも大手の新聞やテレビのコメント欄だとリベラル派の不満の意見の方が強く、彼らがつけた「怒り」の顔文字も目立つ。右翼側の反論の方がむしろ少ない。日本だと、安倍政権や憲法改正の話を礼賛するネトウヨの書き込みも多いが、必ずといっていいほど強く反論する人たちが存在する▼それがブラジルとなると、かなり極右的主張を展開する人が一方的になりつつある。ボルソナロ氏を礼賛するだけならまだしも、最近ではそれがエスカレートして、本国で批判を浴びたトランプ大統領の移民親子引き離し政策の話にハートの絵文字をつけるは、黒人差別や女性への暴力のニュースに「笑い」の絵文字をつけるなど、もはやネット上のモラル違反にまで発展している。右翼の政治活動団体「ブラジル自由運動(MBL)」に至っては、「フェイクニュースを拡散する」として、フェイスブックからいくつかの関連ページを削除されたほどだ▼こうしたネット上のモラルは、情報先やフェイスブックの管理者側が注意すべき問題ではあるのだが、左翼側の人たちがきっちりと言い返す術がもう少しあったならば、ここまで急速なモラル違反の悪化はなかったのでは、とも思う▼ルーラ氏出馬の嘆願も結構だが、「本来、左翼だからアピールできること」をネットで強く主張してみては?(陽)