サンパウロ博物研究会(博研、吉岡パトリシオ会長)が11日午後から、創設者の故橋本梧郎氏の遺稿『湖水に眠るセッテ・ケーダスの植物』第1巻(ポ語)の出版記念会をサンパウロ市イタケーラ区の同会館で行った。出版会には会員ら約30人が集まり、協力者には本が贈呈され、日本からは橋本氏の友人・松田パウロさんも来伯し、故人との思い出を語った。
1982年10月、イタイプーダム建設によって水没した「セッテ・ケーダスの滝」。その周辺の自生植物約1150種の標本は、橋本氏によって1954年から約20年間かけて集められていた。今では採取のしようがない貴重な標本類から作られた図録をまとめたのが、この本だ。
出版会で挨拶に立った吉岡会長は「とうとう先生の遺稿を出版することができて嬉しい」と喜びを語り、先月ご来伯された眞子内親王殿下に「今上天皇皇后両陛下にお願いします」と渡したことを話した。
その後、日本から駆けつけた松田パウロさんが橋本氏との思い出を語った。2人で日光東照宮などを訪問した際、宿泊先の日光植物園にたまたま居合わせた、植物研究をしている学生院生らに講義を行なったことなどを回想し、「橋本さんはいつも子供のような目をしていた」と微笑んだ。
「どこまでも純粋な少年のような人で、会館が建設された際も『これで右手が動くうちは仕事ができる』と目を輝かせていた」と話し、「報徳思想の『人のため』という思想を実行していた人だった」と振り返った。
10年前の会長時代に遺稿を出版する「プロジェクト・イチョウ」を立ち上げた越村健治さん(83、二世)。10年越しに計画が達成されたことに「本当に喜ばしい。関係者の皆さんにお礼申し上げます」と祝辞を述べた。
同研究会の会計を務める川上久子さん(77、東京都)は遺稿について、「研究当時に絶滅状態のものもあった。セッテ・ケーダスにしか自生していなかった植物もあるのではないかと考えられている。現在は確認することができない植物が収められた、とても貴重な本」と語った。
同会館の標本室にある127台の戸棚に約15万点の標本が収められている。最近入会したヨシムラ・シンボさん(68、二世)は土木工学が専門の元大学講師。友人に誘われて訪れた同会館の膨大な標本に驚き、「一般の人々にも見せたい」と標本のデータベース化の計画を吉岡会長と進めている。「貴重な標本の量に感動し、研究会外部の一般人も見られるようにしないともったいない」と語った。現在会員は70人程度、ほとんどが60~80歳以上の高齢者だそう。
ヨシムラさんは博研から車で5分程度の場所にサンパウロ連邦大学があることを挙げ、「大学生など若者を取り込み、活動の活発化や広報に繋がらないか考えている」と語った。遺稿は300部刊行、全文ポ語、学名付き。一冊100レ。問い合わせは博研(11・2522・8299)まで。
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家族の誘いで故橋本梧郎氏の出版会に参加したエリカさん(72、二世)は「こんな資料があるとは知らなかった」と遺稿について話し、「これはもっと多くの人に知らせるべき。橋本さんの偉業をしらせるためにも、外部への広報をもっとした方が良い」と語った。博研は本日から行なわれるアルジャー花祭りに参加する。薬草の展示、説明や、植物の育て方の相談も受け付けるそう。実物を持っていけばより詳細な説明が受けられるかも? 遺稿の販売も行なう。貴重な記録をぜひ手にとってみては。