先週末、米国の映画興行で画期的な出来事があった。ハリウッド製作の映画で、史上初めて、ほぼ全てのキャストがアジア系の映画「クレイジー・リッチ・アジアンズ」が初登場で1位を獲得した。これは100年を超える同国の映画史上で、アジア人主導の映画が1位になった記念すべき瞬間。同じアジア系の人間としては国境を越えて嬉しい話だ▼さらにこの映画には逸話がある。本作の原作は中国系米国人の作家ケヴィン・クワンによる、シンガポールの中国系富豪一族を主役にした小説で、既に書籍としても世界的に大ヒットしていた。だが、それにもかかわらず、ハリウッドは本作を映画化するにあたり、クワン氏に「主役の一家を白人に、舞台をシンガポールから米国に変えてくれないか」と迫った。「そうしないとヒットしない」と彼らは考えていたからだという▼「私の作品を台無しにする気か」とクワン氏は断固として却下した。そもそも、この小説そのものも、近年の中国の富裕層の華やかな現実世界を描いていて、それが興味を持たれてヒットしていたから、仮にハリウッドの言うとおりに作っていたら、原作のファンにとっても腹立たしい結果となっていたはずだ▼すると映画は、ハリウッドの予想を裏切るように、米国で事前に有名な俳優もいなかったにもかかわらず、堂々の大ヒット。ここ数年、「人種的多様性」を強く訴える同国のメディアもこれをひとつのサクセス・ストーリーとしてとらえ、報道も連日のように行なわれている▼コラム子も、原作の小説を英語版で持っていて本作の公開を楽しみにしていた。だが、本作のブラジル公開をネットで調べようとしていたそのとき、すごく歯がゆい気分を味わってしまった▼ブラジル公開が11月と遅いのも嫌だったが、これのポルトガルの題名が「ポードレス・デ・ヒコス」であるのに落胆してしまった。直訳すると「金持ちの腐敗」となるが、そのどこにも「アジア」というニュアンスが消されてしまっているのだ▼ショックのあまりさらに調べてみると、原作の方は既にブラジルではポ語訳が発売されていて、こちらの方は「アジアチコス・ポードレス・デ・ヒコス」と、こちらの題名にはしっかりアジア人であることが生かされている。つまり、ブラジルの映画業界は本場ハリウッドと同じく、ヒットしないことを恐れて「アジア」の文字をわざわざ削っていたのだ▼コラム子はこのことを日本にいる知人たちに語ったのだが、さらに驚くべき事実が判明した。それは日本での題名も「クレイジー・リッチ!」とアジアが省かれているのだという。しかもこちらも原作小説は「クレイジー・リッチ・アジアンズ」の名で売られているのだという▼これは、もしかしたら、「アジア人などで売れるわけがない」と考えたハリウッド側が、国際市場に向けて手を回した策略なのか?そんな風にも考えてしまいたくもなったが、もし、そうだとしたら、なんとも粘着質な恨み節だが。だが、それも、米国での予想外のヒットが武勇伝的に語られる今となってはハリウッドの保守性を示すだけの無駄な話だ▼だが問題は、今のままではこの映画は「アジア」という名前が抜かれたままで公開されてしまうことだ。これでは米国でのせっかくの美談にも傷がついてしまう。ブラジルに住むアジア系移民として由々しき問題だ。公開がはじまってしまう前に、配給先に問い合わせて、いま一度題名の再考を促してみてもいいかもしれない。(陽)