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失って初めて気付く、ものの価値

 2日夜、リオ市の国立博物館で火災と聞き、テレビに釘付けになった。6月に開設200年を迎えた博物館の火災は「200年の喪失」と言われた。だが、米州大陸最古で1万2千年前の人骨、国内最大の恐竜の化石など、2千万点超の所蔵品の9割が焼けた事による実際上の損失は、ブラジル皇帝の元住居の損害よりはるかに大きい▼失ったものの回復は困難だが、所蔵品の貴重さにも関わらず、防災対策は不十分で、保険もかけてなかった。文化省は即座に再建開始というが、建物は直せても、焼失品は類似品やイミテーションを集めて来るのが関の山▼そう考えると、1日の日本人移民110周年記念コンサートで聞いた、日本人のフルート奏者、紫園香氏の話はまるで異なる輝きを放つ。同氏はサンパウロ州各地で演奏会を開き、卓越した技術と音色で聴衆を魅惑したが、演奏会で語られた彼女の話はより大きなインパクトを持っていた。これさえあれば大丈夫と思っていたものを突然失う経験と、それを埋めて余りある祝福に包まれた今の彼女の姿は、演奏以上に印象深い▼愛する人や経済的な基盤、健康まで失った彼女が、名医に会い、フルートを演奏出来るまで回復。教会でフルートを教えるよう乞われてクリスチャンになり、アフリカのスラムの子供にもフルートを教えたし、天皇陛下の前でも演奏した。世界中を演奏旅行して体験談を語る姿には、多くのものを失ったが、新しい命と生きる力を与えられた喜びを少しでも多くの人と分かち合いたいとの思いが漲っている。博物館の火災は形あるものは滅びると痛感させたが、演奏会は人生には炎をもっても壊せないものがあると教えてくれた。  (み)