第70回全伯短歌大会(椰子樹社、ニッケイ新聞共催)が9日、サンパウロ市の文協ビル内で開催され、34人が参加して節目となる第70回大会を開催し、歌友との再会を楽しんだ。108人から応募された216首の中から、栄えある互選の最高得点歌には木村衛さんの作品が選ばれた。
椰子樹社代表の多田邦治さんが司会と務め、初出席者の新宿(にいじゅく)三郎さん、馬場勉さん、上妻みち子さん、佐藤よし子さんの4人が紹介された。
最高得点歌には木村衛さんの<過酷なる試練に堪えし人々のゆとりの短歌味わい深し>(36票)。2位は昨年と同じ山元治彦さんで〈鍬を置き厨の妻を呼んでみるひとりで見るには惜しい夕焼け〉(33票)。3位は松本正雄さんで〈連れ添うて苦楽を共に半世紀財はなさねど満ち足りた日々〉(28票)。4位は内谷美保さんの〈百十年の移民の歴史その中に名も無き吾も小さな足跡〉(21票)、同点で湯山洋さんの〈頃合に漬かった沢庵手みやげに一人になった兄を訪ねる〉など。
席題ではニッケイ新聞から「荒」が当日出題されは、<荒れた世に漕ぎ出す孫の澄んだ目に明るき未来を信じていたき>と詠んだ金谷はるみさんが1位を飾った。
「出でし月かも」を最後に読み込む約束の独楽銀では、昨年から参加する武田知子さんの〈かけ抜けし昭和の御代(みよ)を眼裏(まなうら)に故郷(こきょう)の宮に出でし月かも〉が1位になった。
武田さんは受賞者挨拶で、「私は広島県宮島出身。故郷には海に鳥居がある。今は世界遺産となった故郷への喜びを込めて、その上に月が出ている情景を想い浮かべて詠みました。」と述べた。
上の句を女性が、下の句を男性が詠む「アベック歌合わせ」では<取り入れが終われば君に会いに行く今年は結婚できると信じ>(高橋暎子・住谷久)が1位となった。
多田さんは「70年代の最盛期には120人が参加してこの部屋が一杯になった時代もあった。大会の後に宴会をして飲んで、歌って、踊ってと賑やかだった。普段は顔を合わせられなくても大会に参加することで仲間としての一体感が生まれる。だんだん人数が減って『今回が最後』という声もあったが、来年もぜひやりましょう」と呼びかけた。
閉会の言葉で、宮本るみ子さんは「もしかして今回が最後の大会になるかもと言われて、驚いて参加した。人数は減っても新しい人が参加している。新しい人がまた別の新しい人を連れてくれば続くはず。皆さん、ぜひ来年もお会いしましょう」と語った。