【既報関連】熊本市の劇団夢桟敷(坂本真理代表)は、〃移民の父〃上塚周平の生涯を描いた演劇『万華鏡~百年物語』の公演を、10月6日午後3時からサンパウロ市熊本県人会ホール(Rua Guimaraes Passos, 142)、9日午後7時半からプロミッソン市劇場(Rua Dante Roque, s/n)で行う。プロミッソン上塚第一植民地百周年、ブラジル熊本県人会創立60周年、日本移民110周年の節目を祝したもの。入場無料。一キロの保存食を持参すること。
東京帝国大学卒の法学士でありながら、1908年の第1回移民船、笠戸丸に皇国移民会社の現地代理人として赴任した上塚。同社倒産後に一時帰国するも、将来の日本の発展は海外にありとして、移民事業を完遂させるため、一介の移民として再び海を渡った。
損得を考えず、ひたすら移民の面倒を見る一方で、自らは移民と同様、あるいはそれ以下の清貧な暮らしに徹した。その潔白さゆえに、今もって尊敬を集める。命をかけてブラジルに日本人集団地を建設する理想に燃えた〝肥後もっこす〟の熱血漢の姿が、上塚植民地(プロミッソン)入植100周年の機会に演劇で再現される。
今公演では、最後の笠戸丸移民であった中川トミさんの目を通じて、入植百年の歴史を追体験してゆく形で構成される。
現在の熊本を舞台として、夏祭りで万華鏡を覗き込むことから始まり、笠戸丸がサントスに着港した1908年まで時空を遡り物語が始まる。
坂本代表によれば、09年の公演時、当時のプロミッソン市長から「入植百周年でもぜひ公演を」との依頼があり、その場で再来伯を約束していたという。「何としても約束を果たしたい」との思いから、移民の歴史や上塚周平に関する勉強会を繰り返し、演劇創りに取組んできたという。
「初公演の際、いかに日本移民について無知であったかを思い知らされた。遠い異国で祖国を思いながら必死で生きてきた歴史を知るにつれ、日系人への尊敬の念が沸々と湧いて来たことを思い出す」と話す。
来伯公演には国や県などの公的助成制度を活用するほか、募金活動等により資金調達を目指す。「不足した場合は身銭を切っても実現する」という気合の入れようだ。
19~74歳までの劇団員16人が来伯する。その一人である崇城大学の星加民雄准教授が制作した舞台美術も見所の一つで、上塚周平の出生地、城南町の地元の太鼓グループ「城南火の君太鼓」の劇団員2人が参加する。劇中には太鼓、歌、ダンスも取り入れ、日語が分からない人でも、目で見て楽しめる趣向が凝らされている。
坂本代表は「記念すべき節目に、上塚周平を巡る熊本発の移民物語をお届けできるのはこの上もない喜び」と語り、「お芝居を通じて百年前に立ち戻り、移民子孫の方々と心を通わせることができれば」と期待する。
後援はブラジル熊本県文化交流協会、プロミッソン市、プロミッソン入植百周年委員会、ニッケイ新聞社。劇団夢桟敷の公演は09年に続いて2度目。09年は「ボクノフルサト」と題し、日系青年が自身のルーツを辿る物語だった。
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2009年の劇団「夢桟敷」の来伯公演では、サンパウロ市、ミランドポリス郡の弓場農場、プロミッソン市、ピラール・ド・スール市の4カ所で実施され、各地で盛況を博した。今公演に向けては、今年7月22日の上塚入植百周年式典に併せて、坂本代表、山南純平さんの2人が来伯し、事前に調整を行う気合の入れよう。9年越しとなる今公演では、移民史の勉強を重ねたうえに、安永忠邦さんらプロミッソンの日系人から時に聞いた上塚周平翁の等身大の人物像も舞台製作に反映されているのだとか。09年公演を観た人は、前回公演からの同劇団の成長ぶりを見比べてみるのも一興かも。