9月最後の週末の動向で、大統領選が極右候補のジャイール・ボルソナロ氏に大いに有利に働いた。追う労働者党(PT)のフェルナンド・ハダジ氏には悪いことが重なり、肝心の支持率は停滞し、逆に拒絶率は45%を誇るボルソナロ氏に一気に近づいた▼ただ、ハダジ氏が今回不利になった要因のひとつとしてあげられているものの中に、コラム子がどうしても解せないものがある。それが、PTの汚職政治家の象徴ジョゼ・ジルセウ氏の失言や、元重要閣僚のアントニオ・パロッシ氏によるルーラ元大統領の新たな疑惑暴露ならば仕方がない。ただ、9月29日に全国のみならず世界規模で行なわれた、女性中心による反ボルソナロ・キャンペーン「エレ・ノン」の首謀者がPTであるかのように扱われるのは、いかがなものか▼そもそも、この運動を仕掛けた母体、フェイスブックのサイト「ボルソナロに反対する女性たち」の管理人はPTではなく、社会主義自由党(PSOL)の女性だ。さらに言えば、SNS内でハッシュタグを貼って賛同を示していた人たちも、PT支持者だけではなく、シロ・ゴメス氏やマリーナ・シウヴァ氏といった他の左派系候補の支持者もたくさんいたし、右派のジョアン・アモエド氏の支持者までいた▼さらに言えば、彼女たち女性がこの運動を盛り上げていた最大の要因はハダジ氏を当選させたかったからではない。ボルソナロ氏が女性の権利をないがしろにするような治世を行なうことが怖かったからだ。そうでなければ、ボルソナロ支持者たちが行なった、この運動の支持者たちへの執拗な嫌がらせや攻撃があったにも関わらず抗議運動の強行などしないだろう▼ボルソナロ支持者たちによる「エレ・ノン」運動妨害は、客観的に見てもマナーが守られたものとは言えなかった。前述の主催サイトは2度ハッキングされ、さらに主催者の黒人女性は武器を持った3人組の男から襲撃を受けた。また、アニッタやマリリア・メンドンサといった人気の女性歌手や女優たちがユーチューブ上でエレ・ノン支持をすると、そこに数10万人分の「よくないね」をハッキングでつけるなどの嫌がらせを行なっている▼さらに過去を振り返れば、彼らボルソナロ支持者は今年3月、PSOL所属の当時リオ市議員だったマリエーレ・フランコ氏が殺害された際に事件を祝ったことが、黒人差別や女性差別として問題になっている。さらにマリエーレ氏の未亡人(女性)はいまだにいやがらせを受け、保護観察下に置かれている▼こうしたかねてからの経緯が理解されないまま、ただ単に「対抗政党が主導した、1人の候補へのいじめキャンペーン」のように世間に映ってしまったのだとしたら、それは本当に残念なことだ。たしかに、ボルソナロ氏を嫌う女性が9月29日までに天井を打っていたのかもしれないが、同性の女性がこの運動に理解も示そうとせずにただ偏見で嫌悪するというのもいかがなものだろう。実際、ここ数日の調査でボルソナロ氏の女性支持率が上がっている▼さらにコラム子ががっかりしたことがある。それは10月1日にラヴァ・ジャット作戦で有名になったセルジオ・モロ判事のロザンジェラ夫人がインスタグラムに挙げた投稿だ。彼女はそこで、エレ・ノンの抗議集会で、ボルソナロ支持者が「滑稽だ」とからかいそうな写真を敢えて選び、そこで「皆さんの投票はまかせるが、バンジード(盗賊)の党だけにはいれるな」と、反PT派でおなじみの隠語を使ってPTを批判した。その写真の中には、ゲイであることを勇気を出してカミングアウトして母親と参加した15歳の少年の写真まであったのだが、彼女にとってはそれも「PTの仕業」に映ったらしい。彼女の夫モロ氏がパロッシ氏の証言の公開を認めたのは、この日のことだ▼こんな形では選挙後も、果たしてエレ・ノンに参加した女性たちは納得するのだろうか。(陽)