発動機ならびに農機、建機、小型船舶の製造販売を行う大手企業グループのヤンマーホールディングス株式会社のブラジル子会社、ヤンマーサウスアメリカ有限会社(本社=インダイアツーバ市、北原健二代表取締役社長)は、農業トラクターの組立を主とする新工場開所式を10日、同社工場で催した。同社は2020年までに農業トラクターを年間2千台生産する計画で、これによりブラジル農機市場への本格的な再参入を目指す。
同社は「第二のヤンマーをつくる」という夢のもと、1957年にサンパウロへ海外初の現地法人を設立。60年にインダイアツーバ市に工場を開所し、ディーゼルエンジン生産を開始した。
87年からは農業トラクターの生産を開始し、50馬力以下の市場では圧倒的な市場シェアを占めていたが、01年に耕運機、トラクター事業を現地資本のアグリテック社に売却していた。
以来、エンジン供給、工場家賃、ブランド使用料徴収へと事業転換を行い、アグリテック社を通じてヤンマーブランドの生産を行ってきた。だが、今回の新工場設立により、独自に農業市場への再参入を果たすことになった。
新工場では、ヤンマーホールディングス株式会社が株式の30%を保有するインドのインターナショナル・トラクター社(以下、ITL社)の農業トラクター「Solis」を生産する。エンジンやミッションなどのコア技術を要する部品を除き、60%は国内部品を調達して国産化を図る。
開所式で挨拶した北原社長は「我々ヤンマーは、早い時期からブラジルの農機市場に再度参入する意思を固め、そのチャンスを見計らってきた」と思いを語り、「将来的にはヤンマーブランドのトラクターも含めて国産化のラインナップを広げてゆく。それに応じた生産設備や販売網の拡大を図ってゆきたい」と意気込みを見せた。
同社は近年、マナウスやオザスコに事務所を設立して販売体制を強化してきたが、農機市場はディア・アンド・カンパニー、マッセイ・ファーガソン社などの欧米勢で占められており、市場シェアはごくわずか。だが、競合他社に性能で劣らず価格競争力の高い「Solis」を展開することで、20年の年間生産台数目標を2千台、シェア5%を目指す。
本社の小林直樹専務取締役は「今回の工場設立を皮切りに、農機事業を本格的に拡大していきたい」と話し、「現在、ITL社と協働して、ヤンマーの性能・品質とITL社のコスト競争力を併せもったトラクターの共同生産に取組んでいる。来年下期には、この商品をブラジルに投入したい」と見通した。
ニウソン・アウシデス・ガスパル同市長は「私は農業技師でもあるが、ヤンマーは世界で最も優れた農機メーカーの一つだ。新工場開所はヤンマーがブラジルを信用してくれている証であり、これは我々にとって大いなる誇りだ」として祝辞を送った。
式典には、同社社員や取引先関係者らも含めた約300人が来場。椰子の実を叩き割るなどのインド式の祝儀、鏡割に続けて、ソロカバ文協の稲妻太鼓で祝宴は幕開け。サンバチームがトラクターに乗って登場するなど国際色豊かな華麗な演出で開所式を盛大に祝った。
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ヤンマー工場の開所式では、見慣れないインド式祝儀が行われた。椰子の実を地面で叩き割り、その果汁と果肉をヒンドゥー教の神の一柱である「ガネーシャ(群集の主の意)」に捧げるもので、結婚式などの祝儀で行われるとか。椰子の実が供え物に使われるのは、外側の堅い殻で覆われ、その中身が最も純粋なものだと考えられているから。また、椰子の木は建材として使われ、その果はのどの渇きを癒し油もとれるため、捨てるものがない命の樹木とされているからこそ、神のお供えになっているという。天孫降臨のとき国民が飢えないよう天照大御神がニニギノミコトに渡したのが稲穂であり、日本人にとって米は命と同義。神道では米や酒は日供として用いられている。そう考えると、樽で供えられた神酒の鏡を開く「鏡割り」は、インド風の祝儀とどこか繋がっているのかも。