大統領選はジャイール・ボルソナロ氏(社会自由党・PSL)とフェルナンド・ハダジ氏(労働者党・PT)という、世界中が「危険」と目する極右候補と、汚職で凋落したかつての長期政権の再挑戦という対決になっていることは本紙でも何度も報じていることだ。だが、今回ここではあえて、この対決以外から伺える、今回の選挙の特徴を見ていくことにしたい▼今回の選挙の大番狂わせのひとつは、最多の政党支持を得て、テレビでのキャンペーン期間中に圧倒的な時間を有してたジェラウド・アウキミンが、わずか4%台の支持で4位と惨敗したことだ。それとは対照的に、少数政党1党との連立に過ぎず、テレビでの政見放送も少なかったシロ・ゴメス氏(民主労働党・PDT)が12%台の支持で3位と健闘した。なぜ、そういうことが起こったのか▼その最大の理由は、アウキミン氏の「ネット戦略の軽視」、ズバリ、これにつきる。ここが最悪だったのは、前回、前々回の大統領選3位ながら今回8位に沈んだマリーナ・シウヴァ氏もそうだ▼今回の大統領選の場合、「ネットでの異常熱狂」がボルソナロ氏の人気を押し上げ、この選挙戦全体を盛り上げていたところがあった。同氏の支持者らはフォーリャ、エスタード、ヴェージャ、G1、UOL、ヴェージャといった国を代表するメディアのフェイスブックのコメント欄を毎日100人がかりくらいで独占して書き込みを行ない、その猛烈な意見の嵐が世論に明らかに影響を及ぼしていた。だが、そうした場所に、アウキミン氏なりマリーナ氏の支持者たちが弁護するコメントを書き込んだ光景はほとんど見なかった。だから彼らの「ネットからの盛り上がり」は全く見えてこず、それが最後まで熱気不足として響いてしまった▼そんなボルソナロ氏に対して、ネット上で唯一言い返していたのが実はシロ氏の支持者だったのだ。彼らは、先述の主要メディアのコメント欄をボルソナロ派が独占する中で反論意見をいい返し、話題によっては彼らの方が優勢になる場面を幾度も作っていたほどだ。また、フェイスブック上にはボルソナロ氏の風刺ページがいくつも登場していたが、それの主催者もほとんどシロ氏の支持者だった。彼らは明るいユーモアのセンスで大統領選を盛り上げ、それを熱気としてつなげていた。そんな彼らの動きに合わせるように、これまでだったらPT候補を支持していた国内の芸能人は今回7~8割方がシロ氏の支持に回っていたほどだった▼一方、PTは今回、ネット上ではどうだったのかというと、候補がルーラ氏からハダジ氏に代わるまでは、その様子を見守って待っていた、というのが実際のところだ。これまでのPTの選挙というのは「いかに宿敵PSDBを倒すか」の印象で熾烈なイメージもあったが、今回はハダジ氏がそうしたイメージを嫌ったか、政見放送も主に北東伯の貧しい人たちや女性たちとの触れ合いなど、ソフトなイメージだった▼ネット上においても、PT支持者から議論をふっかけるような光景をコラム子はほとんど目にしていない。それを左派側からしていたのはほとんどの場合がシロ氏か、急進左派系の社会主義自由党(PSOL)の支持者だった。支持者母体が最も大きいために結果的に「ボルソナロ対ハダジの二極対決」に見えてしまうのだが、実際のところはボルソナロ氏支持者の左翼批判の攻撃に対して、シロ氏支持者が中心になって返していたのがネットから見える印象だった▼ブラジルの場合、これまで「テレビでのキャンペーンの多さが勝敗を左右する」とずっと言われてきていたが、それを根底から覆すようなネットでの争いが反映された結果となっている。(陽)