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結局は「お花畑」が招いた極右政権なのか?

ボルソナロ氏とレジーナ(@jairbolsonaro)

ボルソナロ氏とレジーナ(@jairbolsonaro)

 10月28日にジャイール・ボルソナロ氏がブラジル大統領に当選したことに関し、国外とブラジル内での温度差のあまりの違いを感じざるを得ない状況となっている▼欧米のメディアは同氏が行って来た女性やLGBT、黒人への差別や銃自由化、政敵への過剰な攻撃ぶりを報道し「民主主義の危機」を報じている。これに関しては、ブラジル内でもフェルナンド・ハダジ氏(労働者党・PT)に票を投じた人はそうだ▼だが、ボルソナロ氏に票を投じた人たちからはそんな空気は全く感じられず、むしろ「腐敗したPTの長期政権を終わらせた」「政界建て直しの救世主」と同氏を評価し、この就任後に関しても、彼らの65%が「軍事政権など復活するはずがない」と楽観的であることは調査結果でも判明している▼そのことを象徴する、「ある一言」を紹介しよう。言葉の主は女優レジーナ・ドゥアルテ(71)だ。レジーナといえばかつて「ブラジルの恋人」の異名まで取ったほどの人気女優で、彼女が70~80年代に主演したテレビの連続ドラマはブラジル史に残るものとして今日まで知られている▼彼女は、左派が9割方をしめるブラジル芸能界においては、極めて珍しい筋金入りの保守派として有名だ。それは2002年、ルーラ氏のPT政権が誕生しそうになった際、一人で猛反対キャンペーンを起こしてなかば笑い者になったことでもわかる。彼女の女優としての勢いもこれで落ちていた▼その彼女が今回、ボルソナロ氏を支持して話題となっている。彼女は長らく穏健右派の民主社会党(PSDB)支持者として知られていたが、今回、ボルソナロ氏に乗り換えた。そして支持を表明するなり、ボルソナロ氏に会いに行き、抱き合う姿なども見せている▼彼女はボルソナロ氏についてこう語った。「最初は差別主義者だと思って怖かったけど、いざ会ってみるとユーモアもあって、そんなことないの。喩えると、私の世代のお父さんって感じね」▼コラム子はこのレジーナの発言にこそ、今回のボルソナロ氏の勝利の本質を見た気がした。要は「ただ単に口が悪いだけなんだろう。マスコミが煽っている危機なんて起きやしないよ」ということだ▼ブラジルの場合、2016年までPT政権が続き、欧米ほど深刻な移民問題もなかったため、欧米の市民のような「極右」を実感するタイミングを逸していた。そういうこともあり、他国と比べて、米国のトランプ政権誕生にも驚くほど好意的な反応が目立っていた。「米国でもそうなんだから流行なんだろう」。こういう風に思っている人も決して少なくないのは、誇張ではなく事実だ▼「なぜ数年前までバブルだった国で極右政権誕生?」。国外で今回のブラジルでの大変化を不思議がる人は多い。むしろ、バブルの直後だからこそ、今回のようなことが起こったのではないかとコラム子は思う▼それを示す、最近の世論調査の結果を紹介しよう。国民の55%がボルソナロ氏が唱える「銃の自由化」には反対し、さらに74%の人がボルソナロ氏が嫌悪するLGBTを「社会は受け止めなければならない」と考えている。それなのに同氏は当選した。きっと、「常識で考えて、そんな時代に逆行することは起こり得ない」と考えているからだろう▼彼らは「バブルを終わらせたPT」を「国民を裏切った」と憎み、「救世主」によってリセットしたい気持ちなのかもしれない。だが、その救世主がもうすでに「別の危機」をもたらそうとする危険性が生まれ、警鐘も既に鳴らされている。だが、前述のようにそれを本気にせず、耳を傾けようとしない。その危機感のなさこそが、今もなおバブル時代の感性のままだ▼日本のネット用語では「平和ボケ」のことを「お花畑」と呼ぶことがあるが、今回の大統領選が、まさにその「バブルぼけ」状態で行なわれたものなのかもしれない。いみじくもレジーナは、ボルソナロ氏のこれまでの数々の問題発言に関して「きっとマスコミに編集でもされているのよ」と事も無げに答えている。(陽)