『文藝春秋』11月号には《安部政権最大の失政/亡国の「移民政策」》という刺激的な特集が40ページも組まれている。これを読んで驚いたが、実は日本は「隠れ移民大国」だった。
《現在、日本で暮らす外国人数は、約二百五十六万人(二〇一七年末時点。法務省の在留外国人統計)。また「一年以上外国に居住している人」を移民とする経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、二〇一五年の一年間に日本に流入した外国人数は約三十九万人にものぼる。ドイツ、アメリカ、イギリスに次ぎ、先進国では四番目に多い。政府の公式見解では「移民」を解禁していないことになっているが、実は日本は“隠れ移民大国”なのである》(93頁)と書かれている。
また日本のコンビニ大手3社だけで「5万5千人」(18年8月末現在)の外国人が働いているという。都市部のコンビニではほぼ外国人だけでまわしている店舗すらあるという。今年1月時点で、東京都新宿区では新成人の45%が外国人、住民全体でみても12%が外国人だという。
ウィキペディア「日本の外国人」項にも、こう書かれている。
《2018年6月末の時点での在留外国人の数は、263万7251人(速報値)となっており、これは2017年12月から7万5403人増加している。この人数は、統計を取り始めた1959年以降、最高となっている。また、日本の総人口、約1億2659万人の約2%が外国人となる計算である。20歳台では、日本の外国人の割合は、5・8%ほどとなり、東京都の20歳台では10人に1人が外国人となっている》
これを読んで、ブラジルよりも移民大国ではないかと、あきれた。
というのも、ブラジルは今もベネズエラ人移民だけで6万人も受け入れるなど、依然として「移民大国」というイメージが強いが、実はとっくに実態としてはその状態を卒業してしまっているからだ。
実は総人口2億700万人に対して、外国人人口は75万人しかおらず、公式な外国人比率はたった「0・3%」に過ぎない。つまり、割合としては日本の7分の1だ。
ただし、ブラジルの場合、常に非公式だが、より現実に近い数字がある。ビザなしの人たちを入れた実際の外国人総数をその3倍とする推測が、UOL電子版記事「ブラジルには少ししか移民がいない」(http://bit.ly/2OCYUHY)にある。それでも人口の0・9%に過ぎない。つまり、日本の方がはるかに「移民大国」だ。
▼「留学生=労働者」は世界の恥
日本は、実態としては移民大国であるにも関わらず、「移民政策はとらない」と言っている。この日本政府の在り方はオカシイし、日系人を含めて外国人全般は不相応な境遇に置かれていることは間違いないと思う。
同『文藝春秋』によれば、政治家に移民政策をとらない理由を聞くと、「移民という言葉を使うと、拒否反応を示す有権者の方が多いから」という答えが返ってくるという。
そのような歪んだ解釈の中で、昨年は39万人もの外国人が日本に流入し、「移民=住民」としての待遇を保証されず、「一時滞在者」として工場で徹底的に低賃金労働させられている。
特に技能実習生の問題は深刻だ。昨年だけで約7千人が失踪した。この6年間を合計したら失踪者数は、なんと2万8368人。小さな町の人口に匹敵する。まるで、第1回移民船「笠戸丸」時代のコーヒー農園からの夜逃げのようだ。制度破綻しているように見えるのに、今回逆に拡大しようとしている。
こんな制度は日本の恥さらし以外の何物ではない。最近では、その3K待遇に耐えさせるため、「いつかは永住ビザを貰える」という顕彰をぶら下げる“改革”が検討されている。
もし、日本にPT(労働者党)があったら「現代の奴隷制度」といって厳しく批判するだろう。98頁には《留学生=労働者では世界の恥》という節もあるが、まったくその通りだ。
▼技能実習生や留学生に追いやられる日系人
ブラジル日系社会にとって、他人ごとではない。特集の中の一編《外国人比率トップ/群馬県大泉町の悲鳴》(高橋幸春著)では、かつて“ブラジルタウン”と言われた大泉町で、経営者から日系人が敬遠されはじめている現実が描かれている。
《日系人の中には長年働く中で、悪知恵を付けてきた人もいます。正当な手続きを経て解雇されても『不当解雇だ』と主張して、雇用主を訴える者が後を絶ちません》(123頁)という経営者の声が載せられている。
それゆえ、すでに《現在、大泉町で人手不足を解消しているのは、インドネシアを中心とした技能実習生だ》(124頁)と断言し、大泉町町長が思い描く最悪のシナリオを紹介している。
《早くから来日した日系ブラジル人の賃金は上がってきています。そこへ今度はベトナムやインドネシア、ネパールなど賃金が低い国から技能実習生が入ってくる。すると、いろいろな国の実習生と仕事を奪われたブラジル人の間で、対立やトラブルが起きないとも限りません。その時はどうすればいいのか》(124頁)。
移住政策なしに実質的な移民として受け入れられた日系人には、その歪みが凝縮している。《さらに、“デカセギ”に来ている多くの日系人は無年金の状態だ。(中略)多くの労働者が引退を目前とする年齢に差し掛かっている。無年金で職を失った日系人が行きつくところは生活保護だ》(124頁)
これを読んで、8月27日にサンパウロ市で国際就労者情報援護センター(CIATE)が開催したデカセギ・シンポで、通訳やスペイン語教師をする日本在住の松本アルベルトさんが、こう警告していたのを思い出した。
《来年4月の入管法改正で、技能実習生も一定の条件をクリアすれば、定住資格を得られるようになる。この存在は、日系人にとって競争相手だ。彼らは所得の少ない国から来たハングリーで優秀な人材ばかり。技能実習生に加えて、外国人留学生は30万人もいる。留学生の中には大学院まで行く優秀な人もいて、非常に勉強熱心。自分の国へ帰っても仕事がないから、懸命に日本社会に居残るためにがんばっている》。
松本さんは、尻に火が付いた状況にもかかわらず、それがピンと来ていない在日日系社会に強い焦燥感を持っている。
《三世までは永住できる日系人は恵まれている。我々は努力さえすれば、チャンスはいくらでもある。職場を固定された技能実習生と違って、いろいろところで働ける。親は工場で働いていても日本語能力のアップを心掛け、子供には少なくとも高校を卒業させないと》と釘を刺していた。
つまり、素直にこの筋書きを読んでいくと、安部政権の骨太方針によって大量導入される技能実習生という安くて若い労働力によって、年老いた日系人が駆逐される。ブラジルに帰るか、日本で生活保護を受けてみじめな生活を送るかという窮地に追い詰められる可能性がある。
▼日系人から始まった実質的な移民政策
《日本が外国人を実質的に受け入れ始めたのは一九九〇年に、出入国管理法を改正してからです》とあるが、これはまさしく日系三世までが合法就労できるようになった、あの入管法改正だ。そこからデカセギ・ブームが爆発的に起きた。あの時から日本の実質的な移住政策が始まっていた。
日系人はその実験台として導入されたが、日本政府にとって満足できる成績を残さなかった。日本政府は、「日系人は永住を前提としてない」という建前から、当初その子供に日本語支援の政策を積極的にしてこなかった。その結果、日本語もポ語中途半端な世代が何万人も生まれてしまった。
08年にはデカセギは32万人まで増えたが、金融危機で大量失業して、困った日本政府は帰国支援策まで実施してブラジルへ帰国させ、残ったのは17万人。今は19万人まで回復しているが、産業界には、それでは圧倒的に足りない。
だから、実質的な移民労働者である「技能実習生」と「留学生」の枠を広げ、前者が現在約27万人、後者が約31万人と飛躍的に増えてきている。
つまり、「日本国民は移民を受け入れたくない」が、「産業界は低賃金労働者が欲しい」というはざまで、「移民ではないという名目で、日系人と技能実習生と留学生を増やす試行錯誤をしてきた」のがこの20年間だ。
そのなし崩し的移民政策の総決算が、来年4月の実施を目指す入管法改正だ。これまで原則的に認めてこなかった単純労働に門戸を開き、2025年までに新たに50万人を超える外国人の就業を目指すという「骨太の方針」だ。
自民党は「入国した時点で永住を許可されているごく一部のもののみを移民と呼ぶ」と決め、返す刀で日系四世、技能実習生、留学生は移民じゃないからどんどん増やす方針と言い訳している。
だがOECDなどのように「一年以上外国に居住している人=移民」とする定義とは、大きくズレている。OECDの定義は寛容すぎるが、安倍政権のは杓子定規すぎる。というのも安倍政権の定義のように、「移民ではなく一時滞在者」という認識だったから、デカセギの子どもは今まで公教育で阻害されてきた。「一時滞在者」では本来受けられるべき「住民」としての待遇が保証されない。
「日本は移民を受け入れるべきだ」といえば、インターネット上で「売国奴」とののしられる風潮が、そもそもオカシイ。本来ののしられるべきは、実質的な移民なのに、一時滞在者の名のもとに外国人を搾取する産業界だ。
日本国在住者は、搾取される外国人のおかげで低価格の商品やサービスを享受できる現実を直視すべきだ。それを享受しながら「移民はだめ」と言っているのは、産業界の外国人搾取に加担していることに他ならない。
コラム子も「日本の外国人大量受入れ」には反対だ。ただし、すでに入れてしまった人たちに関しては、きちんと移民として対応し、同じ日本国住民として扱うべきだと思う。
▼まず日本人の賃金を上げ、人口を増やすべき!
「移民ではない」という日本政府の姿勢は、「クジラは漢字で書けば『鯨』で、魚ヘンが入っているから魚類だ」と言い張っているようなものだ。政府がそうせざるを得ないように圧力をかけている産業界、そしてそれを許している日本国民の意識が問題の根本だ。
日本は、外国人を極力入れず、日本人自体の人口を増やすのが、日本国の将来を見据えた本来の骨太改革だろう。
安いサービスを享受したいなら、外国人を住民として受け入れるべきだ。受け入れないならば、AIなどで補える労働力は補い、足りない部分は日本人自身が胸を張って3K労働をして、充分に生活できる賃金をもらえるような社会の仕組みを作るべきだ。本来はそれがあるべき姿だと思う。
日本は素晴らしい国だと心底思うし、日本人はもっと自分の国に誇りを持つべきだと痛切に感じるが、「嫌な仕事は外国人に」という妙な優越感を持ちすぎるのはいただけない。本来、日本人はどんな労働でも上下をつけず、3K労働の清掃すらも「道」のように追及する精神を持っていたはずだ。そこが優秀なのであって、現在外国人にやらせている労働を、低賃金しか払う価値がないと軽視することは、本来の日本人の価値観からすればオカシイと思う。
まずは、人手不足と言われている職種の賃金を上げ、日本人にそのような職種へ復帰するように誘導するべきだ。賃金が安すぎて割に合わないと考えている日本人を、職場に戻すことを最優先すべきだろう。
先日のNHKでも《日本人の引きこもりは50代まで入れれば100万人を超える》という特集番組が放送されていた。このような引きこもりを社会復帰させ、女性がもっと働きやすい環境を整えたら、日本国内の日本人だけで産業が立ち行くようになるのではないか。もしくは、その人数でなんとかなるように、足りない部分はAIが補うような構造に社会を変えていくよう最大限に努力をすべきではないか。
もちろん、商品やサービルの価格が上がるだろうし、輸出競争力が下がる。それでも「日本という国」を守るためという納得づくで、それを進めるしかない。それをやった上で、どうしても足りない分だけ、移民としてキチンと受け入れる。それが正道ではないか。
▼足りない部分だけ外国人を導入し、キチンと移住政策を
そこの「どうしても足りない分」の部分で、日系人を「移住政策の実験台」として受け入れられないかと思う。そもそも現在、日本に住む19万人の大半は日本永住組なのは間違いない。
それに加え、今年7月から始まったはずの、日系四世ビザも11月初め時点で「わずか一人」しか発給されてないという話を聞く。「初年度4千人」と聞いていたが、まったく「不発」と言わざるを得ない。
これは、発給条件を厳しくし過ぎたことが原因であり、制度の要件を根本的に見直す必要がある。問題のある技能実習生制度とは違うキチンとした対応をするために厳しくしたと、下地幹郎衆議院議員は説明していた。だが、厳しくしすぎたら、動くものも動かなくなる。
「四世は一時滞在者」「いずれブラジルに帰ってもらう」という考え方があるから、家族帯同禁止、30歳まで等の余計な要件が出てくる。
日系人受け入れを「移住政策の実験台」と位置づけ、そこで試行錯誤して日本国内での外国人受け入れ態勢を整え、最終的にはそれ以外にも広げていくようなあり方があってもいいのではないか。
現在のような「クジラを魚と言いくるめる」状態を続けるのは良くない。外国に住む日本人、日系人は「移住」という現象に敏感だ。その部分で日本が「本音と建て前を使い分けている」状況はいただけない。
だいたい、日本の日本人は、かつて日本が貧しかった時代に、日本人自体が大量に移住した歴史を忘れているようだ。前出の『文藝春秋』特集は約40頁もあるが、日本移民の話は、元パウリスタ新聞記者の高橋幸春さんのところで触れられているだけ。他の部分ではまったく出てこない。
「日本人が外国に移住した時にどうしてもらいたいか」を想像し、実際の歴史をふりかえってほしい。そうすれば地に足の着いた日本国内の移住政策はイメージができるはずだ。
アメリカ大陸で日本移民がどのように受け入れられたのか。その歴史をキチンと学んで、それ以上の受け入れ態勢を作ってほしいと心底思う。いま日本のコンビニで働いているのは“かつての日本移民”だ。
今の技能実習生や、労働を前提とした留学生のような制度は、世界への恥だ。この件に関しては、ブラジル日系社会から、もっと声を大にして発言しても良いと思う。
11月特集テーマは《亡国の「移民政策」》だが、移民を入れることが亡国なのではない。多かれ少なかれ、日本に移民が必要なのは明らかだ。では何が亡国かといえば、今の「移民の入れ方」だ。日本らしく、世界の模範となるような入れ方をしてほしい。
日本の日本人も、これを政治家だけのせいにしてはならない。決断しなければならない主体は、日本国民だ。海外在住者が胸を張れる日本であってほしい。(深)