その大統領当選でさえ、全世界に衝撃を与えたジャイール・ボルソナロ氏だが、現在進めている閣僚人事でも、マスコミや国民の予想を上回る、「毎日が衝撃」の人事を展開中だ▼現時点で軍人からの閣僚入りが6人。そのうちの3人が中核的存在の大統領府のメンバーだ。さらに、外相と教育相は、ボルソナロ氏が信奉する極右思想家オラーヴォ・デ・カルヴァーリョ氏が推奨する人物で「マルクス主義者を放逐する」と語る鼻息荒い人物だ。政治家からの登用は少なく、たまにあったかと思えば、それはかつて「政党透明度ランキング」でワースト1になったことがある民主党(DEM)がほとんどで、それらの中では汚職疑惑で警察からの捜査を受けた人物がズラリと並ぶ▼大統領就任はあと一月ほど先だが、こうした組閣の現状に対して、国民は熱狂するでも、怒るでもない状況を迎えている。あえて一言で言うなら「しらけ」と言ったところか。「汚職撲滅を中心とした政界改革」というフレッシュさを求めてボルソナロ氏に票を投じた人たちの一部からは「別にこういうことを望んで票を入れたわけではないのに」との声が漏れはじめている。それに対し、選挙期間中から反ボルソナロ派の左派系の人たちは、特に怒るわけでもなく「アヴィセイ(言っただろ)」という言葉をネット内で流行らせている▼それでも、ボルソナロ氏自身が築き上げたと言っても過言ではない「ブラジル版ネトウヨ」の支持勢力があるおかげで、まだコアな支持層は失ってはいない。ただ、それでも、ブラジル国内でかねてから「右派の論客」と呼ばれていた著名人の中にはボルソナロ氏から距離を置きはじめている人も少なくない▼たとえば視聴率2位のSBT局の女性キャスター、ラケル・シェへラザーデだ。彼女は熱心な福音派キリスト教徒として知られ、かつて、窃盗を働いた黒人少年が人種差別的な方法でさらし者にされた際、「悪いことをしたのだから仕方がない」と発言し問題になったことさえある。彼女はこうした発言の数々から「右翼姫」の名前まで頂戴したことほどであるが、そんな彼女はかねてからボルソナロ氏には批判的な発言を繰り返している。今回の組閣に関しても彼女は「これは文民内閣なの? それとも軍人の寄せ集め?」と発言し話題を呼んでいる▼もうひとりはレイナウド・アゼヴェド氏だ。彼は国内で最も有名な右派政治評論家のひとりで、労働者党(PT)政権の全盛時からPT批判の本を出してベストセラーにしてきたことでも知られているが、彼も今回のボルソナロ氏の組閣に関して「こんなに軍人ばかり集めて、議会との交渉はどうするの? 彼にとって政治家は敵なのか?」との皮肉を自身の番組で語っている。同氏もボルソナロ氏にはかねてから懐疑的で、とりわけ狂信的な彼の信者に関し「PTの批判本を4冊書いても殺人予告まではもらわなかった。それがボルソナロだと一度の批判で来た」と呆れている▼こうした、組閣に関して世に流れている空気は果たして「杞憂」なのか、それとも、国民の多くが政権がはじまって抱くこととなる「失望や怒りの先駆け」となるのか。それは現時点ではまだわからない。だが、ムードを変えるためには、パウロ・ゲデス次期経済相をはじめとしたシカゴ学派の経済スタッフがよほど好結果を出すか、もしくはセルジオ・モロ次期法相主導の汚職摘発が目覚しい結果を記録するか。少なくとも、それらが起きる必要があるだろう。(陽)