今上陛下が即位されてから、1月7日でご在位30年を迎える。激動の昭和を経て、現行憲法下で初めて即位された陛下は、国民統合の象徴としての在り方を模索すると共に、国民の安寧を切に願ってこられた。『史記』五体本紀の「内平外成」を由来とし、国内外、天地ともに平和が達せれんことを願って命名された「平成」。その平成の御代がいよいよ幕引きを迎える――。
17年末に「天皇陛下の退位に向けた特例法」が閣議決定されたことを受けて、陛下は新年の4月30日にご退位され、上皇となられる。譲位は光格天皇以来約200年振りで、憲政史上では初めて。翌5月1日に皇太子殿下が新天皇に即位され、新元号となる。
皇太子殿下は、昨年2月のお誕生日の記者会見にて、以下のようにご即位へのご覚悟を述べられている。
《過去の天皇が歩んでこられた道と、そしてまた、天皇は日本国、そして日本国民統合の象徴であるという憲法の規定に思いを致して、国民と苦楽を共にしながら、国民の幸せを願い、象徴とはどうあるべきか、その望ましい在り方を求め続けるということが大切であると思います》
国民統合の象徴としての在り方を模索し、新しい時代の要請に応えながら、全身全霊を以って公務を全うされてきた両陛下。そのお姿をしっかりと心に刻み、自己研鑽に励んでこられた皇太子殿下の真骨頂とも言えるのが、昨年3月にブラジリアで開催された「第8回世界水フォーラム」での講演であった。
人々の生活にとって不可欠なものであると同時に、洪水などの災害をもたらす「水」。昨年は、西日本を中心に集中豪雨に見舞われ、河川の氾濫や洪水、土砂災害により死者・行方不明者は200人以上に上った。自然災害が多い国ゆえに、それ切り口として、国民の安寧と世界各地の人々の生活向上を願って、水問題に積極的に取り組んでこられた。
フォーラムでは、「水による繁栄、平和、幸福」をテーマに講演された。慢性的な水不足により争いが絶えなかった安城ヶ原で明治用水が導入されたことで先進的な農業地帯に発展した例や、武田信玄が水争いをしていた3つの村に農業用水を均等に配分するために築いたと言われる山梨県の「三分一湧水」など、過去の歴史的教訓を紐解かれた。
皇太子殿下は、水問題が貧困や、教育、社会性のような開発目標と関連する横断的課題と位置づけられ、「あらゆる分野の人々が、包括的な方法で問題を解決してゆくために、ともに手を携えるときです」と訴えらえた。
国民の安寧を願って、過去の天皇の歩みに思いを致し、深い歴史的洞察に基づいた平和のメッセージを世界に向けて強く発信されたその姿は、皇室の新時代到来を深く印象づけることとなった。
さてブラジル日本移民110周年を迎えた日系社会にとっては、旧年は皇室との特別な絆がより一層深まった一年であったと言える。110周年祭典に先駆けて、皇太子殿下が日系社会に励ましのお言葉をかけらえたうえ、7月には眞子内親王殿下がご訪問された。
眞子内親王殿下は、およそ10日間に及び5州14都市をご訪問された。特に、サンパウロ州奥地へのご訪問は三笠宮同妃両殿下以来、実に60年振り。プロミッソン、カフェランジア平野植民地、パラー州トメアスーは、皇族として初訪問となった。まだ若き成年皇族であられる殿下のご訪問は、代替わりにある皇室の若い世代と世代継承が進みつつある日系社会に新たな絆を生み出したと言える。
各地で熱烈な歓迎を受けた眞子内親王殿下は、高齢移民のみならず、次世代を担う若き日系人とのご交流を大切にされ、励ましの言葉をかけられた。パラナ州ではマリンガで初めて開催されたエキスポで10万人の来場者が押し寄せ、若手がその運営を支えた。サンパウロ市でもギネス記録挑戦で、若手を中心に600人以上が協力するなど、日系社会を担う若手育成に繋がっている。
さらにプロミッソンでは、長年、勝負抗争で反目していた二団体が共に手を携え、入植百周年を迎えた上塚植民地の運動場では、1万人を遥かに凌ぐ過去最大の祭典を開催した。眞子内親王殿下のご訪問をきっかけに二団体は統合に向けた歩みを進めており、過疎化が進む地方日系社会にも活性化を生んでいる。
眞子内親王殿下は、ご訪問を終えて、以下のようにご印象を述べられている。
《この歴史が、未来を担う世代にも大切に引き継がれていきますことを願います。これからも、日系社会の皆さまがお元気で末永く活躍され、日系社会が一層発展しますよう、また今後とも日本とブラジルが寄り添える関係でありますよう、そして、両国の友好関係がますます深まりますよう、願っております》
皇室は折に触れて、ブラジルを直接訪問されるだけでなく、常に移住者とその子孫にお心を寄せられてきた。日本に出稼ぎで日系ブラジル人が還流するようになると、その人々の暮らしぶりを案じられてこられた。
本年は、今上陛下がご退位され新元号となる一方で、ブラジルではボルソナロ新政権が発足し、両国において新時代の幕開けとなる。また、日本と中南米日系社会の関係は、協力から連携に軸足を移しつつある。
そのようななかで、遥か遠くに暮らす日系人の暮らしを案じ、日伯友好関係のさらなる発展を願っておられる皇室。その弥栄を新年に祈るとともに、そのお心に日系社会もしっかりと応えていきたいところだ。(大澤航平記者)