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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(38)

 ウシが家を掃除するのにほうきを作ろうとしているあいだ、男二人は薪を探しにでかけた。そして、それまで気づかなかったのだが、家の後ろは下り坂で、川岸までいけることが分った。そこにはまだ原始林があった。コーヒーの海原に残されたわずかな自然林だ。そこで、何日か分の薪を手に入れることができた。
 もう少し寝心地よいベッドにしようと考えた。ベッドの木材が硬すぎるばかりでなく、床になる板の間から隙間風がはいり寒かったのだ。冬の寒さがひどいのはわかっていた。前夜、先輩の同郷者から、クッションに詰めるとうもろこしの皮がわずかな値で手に入るという情報を得ていた。農園の購買部では小麦粉の空袋を売っていて、それを使ってクッションをつくった。
 その夜、成果を試してみた。硬い木材よりずっとやわらかくて寝心地がよかったけれど、ひとつだけ問題があった。まだ、使い始めなので、ちょっと動くだけで、ガサガサ音がすることだった。眠りの浅い樽はその音が気になったが、反対に熟睡する正輝は、夜中、音には気づかなかった。
 二日目は農機具の手入れに当てられた。三人それぞれに斧、鍬、鎌が渡されていたが、これらの農具に柄をつけ、よく切れるように研がなくてはならなかった。
 鍬はいちばん大切な道具だ。柄にするための直径3~4センチ、長さ1・5メートルほどのまっ直ぐで、でこぼこのない枝か幹を森の中から探してきた。さらに折れにくいという条件がある。探すのは大変だった。柄にするのに適しているのはガタンブー(俗に鍬の木とよばれる)という木だそうだ。到着を祝ってくれた先輩たちがその木の形を教えてくれていたし、その葉っぱも見せてくれた。その木でどのように柄をつくるか、細かい指示も受けていた。
 見つかった枝をきちんとした長さに切る。幹はたまにはまっ直ぐでないことがある。それをまっ直ぐにする方法もあるのだった。まず、枝や葉をとり除くが、皮はそのままにする。木が熱くなるまで、火を当てる。幹が熱くなったら、まっ直ぐのばして、そのまま、冷たくなるまでしっかりにぎっておく。そのあと、皮を剥ぐのだ。
 柄ができたら、鍬につける。この作業にはちょっとしたコツと忍耐が必要だ。鍬が具合よく動くためには、角度が大事なのだった。たとえば、雑草を払ったり、除草するときには、地面と平行した角度にする。激しい動きや、鍬を力いっぱい地面に食いこませるときには、鍬が外れないようにしなければならない。そのために楔を打ちこむ。楔をまんなかに打ちこむときは両端を残し、柄の中央を5センチほど削り掘る。横に入れるときは左右どちらかの側面を5センチほど切りとる。いずれにしても肝心なのは角度を狂わせないようにすることだ。楔には硬いカブレウヴァの木が最適だというが、樽と正輝は見つけることができなかった。そこで、楔に柄と同じガタンブーを使った。
 柄をつける作業はすんだが、まだ、農機具を研ぐ仕事があった。事務所はヤスリを貸してくれた。最初の鍬はわりあい簡単に研げた。だが、ふたつ目の鍬は労働者が「ヤスリが利かない」といったほどやっかいだった。鍬を温め、刃が切れるようになるまでヤスリでこすらなければならなかった。それから石を使って、切れ具合を整えた。こんなかんたんなわけもないような作業に、与えられた二日間をついやしてしまった。