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『百年の水流』開発前線編 第四部=ドラマの町バストス=外山 脩=(3)

悲しき習性

グランジャ(養鶏場)の様子(参考写真)

グランジャ(養鶏場)の様子(参考写真)

 地域の日系住民が――自分たちが狙われていることは判っているのに――団結して強盗に対する自衛策をとらない…という摩訶不思議な現象は、バストスに限らず何処でも起きた…あるいは起きていることである。例外を耳にしたことはあるが、数は少ない。
 何故そうなのか? 2012年バストス滞在中、農村協会会長の古賀ウエリントンさんに、こう訊ねてみた。
「オーボの値が良い今、皆が儲けの一部を出して、自衛策を講じるべきではないか?」
 返事は、こうだった。
「治安対策、方法はいくらでも考えられる。けれど皆、個人主義で…。リーダーの後継者をつくらなかったのが原因。お金を出せないのではなく、出さない…そういう金銭感覚を身につけてしまった」
「お金を出せないのではなく、出さない」の部分は「お金が無くて出せないのではなく、有っても出さない」の意味である。無論、治安対策だけでなく、社会的な事業一般に関しての話であろう。
 その金銭感覚を、地元の文協会長だった薮田オサム氏との雑談の中で、話題にすると「移民の悲しき習性だナ…」と呟いていた。
 結局、強盗に関しては、個々で対策を講じる以外なかった。前出の垣本さんが、こう話していた。
「大きなグランジャでは、グアルダを雇ったところもある。わしは(隣町の)ツッパンの警備会
社と契約した。わしの自宅は町にあって、グランジャは郊外にある。警備会社がグランジャに監視装置をつけた。ある時、自宅に会社から『今、アナタのグランジャにラドロンが入っている』と知らせがあった。警官の同行を求め、一緒に駆け付けたら、確かにラドロンがポルタを破ろうとしている。警官が鉄砲をぶっ放して追い払った」
 以上の様な取材をしてから3年後の2015年、筆者がバストスを訪れた時は、町は一段と活気が出、大きなスーペル・メルカードもできていた。ただ、バストス産組の再建は進んでいなかった。
 高木、板垣両氏は、ナンと病没したという。3年前は至極健康そうだった。信じられなかった。
 その折、例のサトシが日本から戻っていると聞いた。一時的な帰省の様であった。会ってみようと試みたが、先方の家族や当人の微妙な反応から、止めにした。
 ただ、事情通の一住民によると、死んだ強盗の首領の弟からサトシに電話がかかってきて「復讐してやる」と凄んだ。その時、サトシは、こうやりかえした。
「おお~、いつでも来い。返り討ちにしてやる」
 この話が事実とすると、既述の「強盗の仲間の復讐を警戒した点もあったのではないか…」という推定は、少し違っていたかもしれない。
 なお、首領の祖母は「孫は悪いことばかりしていた。いつか殺されるだろう、と思っていた」と嘆いていたそうである。
 2017年、2、3の住民にサンパウロから電話をして、強盗に関する近況を問い合わせると「最近は殆ど事件の話を聞かない」ということであった。あ~良かったナ、と思った。が、2018年の初め、ある大型グランジャの経営者に、電話で養鶏業界の動きを取材した折、ついでに治安問題も訊くと「事件は色々起きている。が、もう話題にもならない。(日系に限らず)ブラジル中、今や何処でもそうだ」という答えだった。話題にもならないから「事件の話を聞かない」だったのである。
 日系人が狙われることが多いのは、完全に嘗められているためである。警察が頼りにならない以上、日系住民が団結して組織的に自衛する以外ない。筆者が「オーボの高値が今なお続き、日に数百万R$の金がバストスに流れ込んでいると聞いた。こういう時にこそ、抜本的対策を施すべき。地元で警備会社を作ってはどうか?」と打診すると「私の頭は、そこまで行かない」という返事だった。
 ともあれ、バストスは現在そういう状況にあるが、以下、その歴史を振り返ってみる――。
(つづく)