「日本のブラジル人コミュニティでは高齢化が進み、親族が集中して住むようになり、永住化傾向が顕著」――そんな興味深い研究結果を、静岡文化芸術大学副学長、池上重弘教授は20日、サンパウロ市のジャパン・ハウスで講演し、満員となる120人が熱心に耳を傾けた。日本のブラジル人コミュニティに関しては否定的な報道が多いなか、永住化傾向を強めるブラジル人に教育への関心を喚起させ、大学進学を通して日本社会に役立つグローバル人材を育てる前向きな方向性が感じられる発表となった。
池上教授は講演のなかで、在日外国人256万人のうち、永住者や定住者などの居住と就労に制限のない在住資格を持つ人は56%もおり、日本政府は移民政策をとることを否定しているが、「この層は欧州基準からすれば、すでに移民に相当する」と強調した。
在日外国人の中でブラジル人はわずか7・5%だが、静岡県においては最多で32・6%を占めている。うち「移民相当」の資格を持つ外国人は、県内においては74・1%を占める。
池上教授は、09年と16年に県内で行った調査結果を比較した。ブラジル人県内在住者は明らかに高齢化し、永住資格を持つ人は65・8%から75・5%に増え、通算滞在年数が20年を超える人の割合が5・5%から45%に激増しており、永住化傾向が顕著にみられると指摘する。
同調査の白眉は「今後の日本での滞在予定期間」だ。09年に「日本に住み続ける予定」が23・6%だったのが、7年後には「日本に永住するつもり」が44・2%に激増した。
その現状を受け、県行政、浜松市教育委員会、国際交流協会、NPO、大学が緩やかに連携しながら支援している。同大学では「多文化子ども教育フォーラム」開催に加え、バイリンガル絵本の制作をし、それを使ってブラジル人学生に周辺地区に住むブラジル人家族を訪問してもらい、教育情報の提供をしつつ「大学進学が可能」という現実に触れさせる活動をしてきた。
同大学における南米系外国人学生は、06年に最初の一人が入学、11年からは毎年2~4人入るようになり、現在では10人近くいるという。過去の分も合計すれば約30人もいる。
池上教授はまとめとして、日本で育った第二世代の中には、永住の次の段階である帰化を意識してアイデンティティを日系ブラジル人というよりは「ブラジル系日本人」と考えるような変化がみられ、日本社会としては彼らがグローバル人材としての活躍するための支援策を練ると同時に、教育から落ちこぼれる者への支援策が課題となっていると語った。
聴衆の一人、大学院修士課程のマリア・フィロメナさん(23)は「大学の側から移民家庭を訪問して教育の情報提供をするという積極性が、ブラジルにはない。学ぶべきことがあると感じた。とても興味深い発表」との感想を語った。
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静岡文芸大の池上重弘教授の2016年調査で興味深いのは「日本に永住するつもり」が44・2%もいる点だが、さらなる深読みもできそうだ。我々のようなブラジル移住者からすれば、なし崩し的に永住していく人も多いことを痛感する。この44・2%を「積極的に永住の決心を固めた人」と考えると、それ以外に「なし崩し的に永住する人」も相当数いてもおかしくない。良く調査結果を見ると、「10年以上」と答えた人は7・3%いる。逆に「10年未満」と答えた人の合計12・2%しかいない。それ以外の人は「どのくらい日本で生活するか分からない」とした人で、なんと35・7%も。この35・7%の相当部分が「なし崩し的に永住する人」と考えられなくもない。とすれば、それに「10年以上」を足せば、実は6割以上が永住する人かも。