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「極右」を通り越して「王朝の権力争い」

カルロス氏(左)(Fabio Rodrigues Pozzebom/Agência Brasil)

カルロス氏(左)(Fabio Rodrigues Pozzebom/Agência Brasil)

 1月中旬からのボルソナロ政権のつまづきがお粗末だ。それを引き起こしたのはボルソナロ大統領自身ではない。それを起こしたのはまぎれもなく、彼の息子たちだ▼つまづきの発端となったのは長男フラヴィオ上院議員の、リオ州議員時代の幽霊職員の不正雇用疑惑で、昨年末にさかのぼる。疑問に満足に答えることなく、ふがいない姿を露にした。疑惑の捜査にこそ踏み切られてはいないが、今や世間は長男を、「犯罪のために利用された実態のない人」を意味する隠語「ラランジャ(オレンジ)」とのあだ名で呼ばれ、ちょっとした流行語にもなっている▼だが現在、その長男を上回る勢いで悪い意味で注目度があがっているのが次男カルロス氏だ。彼がボルソナロ政権内における頭痛の種になっている▼上院議員となった兄、下院議員の弟に比べ、いまだリオ市会議員で、兄弟の中で唯一大学にも行っていない。出世面で遅れをとっていたカルロス氏は、昨年10月の父の大統領当選時から、政権引継ぎ作業に加わっていた。この行為は当時、コラム子的にも不自然に見えたものだが、それを嫌ってカルロス氏を現場から追い出した存在がいた▼それがグスターヴォ・べビアーノ氏だ。ボルソナロ氏を自身の党、社会自由党(PSL)に誘い、大統領選の参謀をつとめた、いわば「影のリーダー」で、大統領府総務室長に選ばれていた。この締め出しにより、カルロス氏がボルソナロ政権の閣僚入りすることはなくなった▼だが、この2月、べビアーノ氏にPSL内で起こった、昨年の統一選挙での「幽霊候補(ラランジャ)」の疑惑が浮上したのにつけこんだ。カルロス氏はべビアーノ氏の新聞取材での言葉尻をつく形でツイッターで「嘘つきだ」と大騒ぎ。遂には父ボルソナロ氏を味方につけ、べビアーノ氏を大統領府から追い出した▼結局、この問題はべビアーノ氏がボルソナロ氏とのワッツアップ等の通話の録音を暴露する形で、これがカルロス氏たちが陥れた罠であるかのような印象を与えている▼こういう話をすると、ボルソナロ政権内で家族を巻き込んでの権力争いが起こっているような印象を与えるかもしれないが、閣僚内ではかねてからカルロス氏の我が物顔での振る舞いが問題となっていた。それは、本来ボルソナロ氏が味方につけたいはずの軍部で特にカルロス氏への嫌悪感が強まっているというのだ▼これはすでに報じられている話だが、現在ボルソナロ氏には、特に役職についているわけでもないのに、24時間つきっきりの若い男性がいるという。それがレオ・インジオと呼ばれる男性で、彼がカルロス氏と懇意だというのだ。関係者や報道陣のあいだではもっぱらインジオ氏が「カルロス氏が送り込んだ見張り」だとささやかれているほどだ▼それに加えてカルロス氏はボルソナロ氏のネット関係を取り仕切っており、ネトウヨに強い影響力を誇っている▼また、三男エドゥアルド氏もカルロス氏に負けじと権力意識が強い。「最高裁なんてすぐ閉鎖できる」「左翼を国から駆逐する」など、兄弟の中で言動が最も暴力的な彼は、かのアメリカのトランプ大統領の右腕的存在だったスティーヴ・バノン氏に接近し、バノン氏のグループが画策する極右思想の伝播の南米支部長役に任命されているほどだ。そのエドゥアルド氏もアミウトン・モウロン副大統領に食ってかかり、34歳の若さながらPSLのリーダー役になろうとするなどして、その言動を連邦政府や自党の関係者から煙たがられている▼これが仮にテレビのリアリティショーなどであれば、傍で見ていて面白くはある。だが、欧州における中世の王朝の争いや日本の戦国時代でもあるまいし、現在の民主国家の範疇において、大統領の息子たちが権力欲を露にして影響力を持とうとするのはいかがなものなのか。この息子たちの動向がボルソナロ政権にとって危険な存在になりそうな気がするのだが。(陽)