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増加中のサソリに注意を!=在ブラジル日本国大使館 参事官兼医務官 岡本洋幸 医学博士 ICD(インフェクションコントロールドクター)

保健省提供のブラジリアンイエロースコーピオンの写真(許可を得て掲載)

保健省提供のブラジリアンイエロースコーピオンの写真(許可を得て掲載)

 世界中には約1500種類のサソリがいて(注1)、約30種類に危険があるとされています(注2~5)。ブラジルには約160種類のサソリがいます。
 ブラジルでは、森林破壊が進んだ結果、都市部にもサソリが侵入しています。
 ブラジル国内では、Tityus属ブラジリアンイエロースコーピオン(体長5cm程度)が一番猛毒です。単為生殖で、雌のみで繁殖できるので注意が必要です。餌を食べなくても1年程度生きます。1922年にLutzとMelloにより発表されました(注5)。1960年代にGomezとDinizによりこのサソリの神経毒はチチストキシンと命名されて以降も研究は継続されています(注1)。
▼対策
 ゴキブリなどを餌にするため、部屋をきれいに掃除したり、ゴミ箱にしっかりふたをするなどして、ゴキブリが発生しないようにすることが必要です。
 フクロウや蛙は、サソリを食べるので、庭などがある場合は、そのような生き物がいることは有効です。在ブラジル日本国大使館には、ホロホロ鳥がいて、サソリを食べてくれています。
▼刺されたら
 お子様や高齢者は、猛毒のサソリに刺された場合は、抗血清治療を必要とします。この抗血清は、保健省から各州の指定病院に置いてあり、私立病院には置いてありません。
 緊急の場合は、SAMU192または、消防隊193に問い合わせて下さい。2018年は、ブラジル全土で14万1400人が被害に遭い、その13%が抗血清治療を必要としました。
 ブラジルでは、主に12月から3月に発生します。2018年の死亡者の数は不明ですが、2017年は143人が亡くなりました。
▼症状
 ブラジリアンイエロースコーピオンを筆頭とするTityus属4種は、特に危険であり軽度だと局所の痛みだけですが、中等度以上だとおう吐、腹痛、心筋障害、心不整脈、肺水腫、ショックを神経毒によって引き起こします(注7)。
▼病院に行くまでに
 サソリの種類が特定されれば、処置が必要かどうか判断できます。可能ならば刺したサソリの写真を撮るか、瓶などに入れて病院に持って行って下さい。
 刺された場所を石鹸と水で洗浄し、ぬるま湯の布を当てて下さい。刺された所には、アルコールやたばこ、ハーブ、尿などを塗らないで下さい。
 2018年7月には、サンパウロで4歳の少女がサソリに刺され、病院に搬送されましたが、抗血清が準備されておらず、別の病院に運ばれる間に手遅れになっています(注8)。
 皆様のお役に立てば幸いです。
 尚、この見解は個人の見解であり、所属する団体の見解ではありません。(※謝辞=獨協医科大学医学部熱帯病寄生虫病学講座 桐木准教授)

【注】参考文献
(1)Prendini L etc. Scorpion higher phylogeny and classification,taxonomic anarchy, and standards for peer review in online publishing.
(2)Chippaux JP, etc Epidemiology of scorpionism: a global appraisal.
(3)Lourenco WR. A historical approach to scorpion studies with special reference to the 20th and 21st centuries.
(4)Lourenco WR. What do we know about some of the most conspicuous scorpion species of the genus Tityus?
(5)Lourenco WR. Scorpion incidents, misidentification cases and possible implications for the final interpretation of results.
(8)ニューズウィーク日本版 2018年