「セナが亡くなったすぐ後、世界中からファンがうちにやってきた。あの頃、セナの事務所が近くにあったこともあって、よく彼が食べに来ていたんだ。ファンたちはセナの愛した料理を味わい、そしてモルンビーの墓地に花を供えに行った」。レストラン「オ・コンパードレ」の経営者、マルコス・テンペラニさん(45)は、懐かしそうに思い出す。
このレストランは1992年に父オズマールさんがサンパウロ市ヴィラ・マリア区に創立し、98年から現在のショッピングセンター「ラールセンター」に移った。ブラジルが誇るF1パイロット、アイルトン・セナが通っていたのは最初の店の時代だ。だが開店時からシェフを務める母ドナ・ローザの「おふくろの味」は今も変わらない。世界を転戦して歩いたセナが、外国で思い浮かべた「懐かしい故郷の味」はきっとこれだったに違いない。
同店はショッピングセンターの中にありながら、まるで田舎のファゼンダに来てブラジルの良質な郷土料理を味わっている気分になれる隠れ家的な店だ。店名は「親愛なる長年の友」を意味し、肩が凝らない、飽きない、飾らない、本当の友情が続くことを願って付けられたようだ。
父はイタリア系、母はスペイン系で、両親ともミナス州出身。出身国の料理ではなく、あえてブラジル郷土料理店を開いたところに、移民大国らしさを感じさせる。
ここの味の特徴は、当地レストランにありがちな塩味が強すぎたり、頭がキーンとするほど甘すぎる味付けがないこと。ドナ・ローザの独自レシピで、素材本来の味わいを引き出す工夫が随所にみられる。「田舎料理だから粗野では」という先入観を、良い意味で裏切られる。あまりに一般的なブラジル料理の品目だけに、そこそこの味を頭の中に思い浮かべしまうが、伝統的なまま洗練された郷土料理になっている。
内装は戦前から続くファゼンダの母屋を思わせる。煉瓦と古い木材の伝統的な佇まいの装飾がほどこされ、フィルコ(Philco)の丸いブラウン管テレビ、インペリアルのタイプライター、ペンキ缶ほどもある立派な昔のラジオなどがさりげなく並び、一気にタイムスリップした気分になる。
バーには200種類のカシャッサ、50種類のウイスキーがずらりとならぶ。「ここにあるカシャッサは普通のウイスキーより高いものばかり」とマルコスさん。良く見ると日本製のサントリー「知多」もさりげなく置かれている。こだわりを感じさせる品ぞろえだ。
奥に入ると、70皿もの料理がズラリ。ムケッカ・カピシャーバ、ボボー・デ・カマロン、ラバーダ、フェイジョアーダなどのブラジル各地を代表する郷土料理が日替わりで出される。ガウーショ料理には欠かせないじっくりと焼いたクッピン、コステーラ、ペルニウ、コルデイロも驚くほどやわらかく、肉汁があふれている。チラピアの焼き魚もある。
そんなプラット・ケンチが半分で、残りが季節の新鮮な野菜を存分に使ったサラダやチーズなどのプラット・フリオ。さりげなく置かれたカルパッチオは絶品だ。
スパゲッティはその場で茹でてくれ、好きな味付けを指示すれば目の前で作ってくれる。
デザートが15種類もあるのも嬉しい。お薦めはミューフォーリャスで、クリームの甘味は控えめ。マリア・モーレは、ついつい子供向きの素朴な味を想像してしまいがちだが、しっかりと大人のデザートになっている。プリンも卵の味が濃い。
これが食べ放題で、平日なら一人65・90レアル。デザート付きなら75・90レアル。週末は75・90レアル。デザート付きで85・90レアル。営業時間は月曜から土曜までが正午~午後4時、午後7時~11時半まで。日曜のみ正午~午後5時まで。
客席は300席。イベントやフェスタで使えるサロンも2種類(40人用、120人用)がある。「企業のイベントとか、お誕生日会で使う人が多いですね」とマルコスさん。サロンを使う場合は要予約。
日本や外国からの来客をブラジル料理でもてなしたい時にも、ちょうどいい店といえそうだ。
O Compadre
Av. Otto Baumgart, 500 • Estac. Shopping Lar Center
Vila Guilherme – CEP: 02049-900 – São Paulo / SP
(011) 2252-3131