ホーム | コラム | 樹海 | もはや「イロモノ政治家」まで大統領よりまとも?

もはや「イロモノ政治家」まで大統領よりまとも?

フロッタ氏(Antonio Cruz/Agencia Brasil)

フロッタ氏(Antonio Cruz/Agencia Brasil)

 10日付フォーリャ紙に非常に興味深いインタビュー記事が掲載された。それは、元ポルノ男優として知られる一年生下院議員アレッシャンドレ・フロッタ氏のものだが、ボルソナロ大統領の熱心な支持者として知られた彼が、同大統領ならびに同政権を批判する発言を行なったのだ▼フロッタ氏はかねてから極右主義者として知られ、ボルソナロ氏の大統領選を支持し、自身も同じ社会自由党(PSL)から出馬し、下議に当選している。その際、数々の音楽賞、文学賞に輝いてきたブラジルきっての知性派で生粋の労働者党(PT)支持者の国民的大歌手と比較して、「シコ・ブアルキが支持する候補と、フロッタなんかが支持する候補の、どちらがまともだと思うんだ」など、からかわれることもしばしばだった▼そんなフロッタ氏が、「ボルソナロ氏はオラーヴォ・デ・カルヴァーリョ氏に毒されすぎだ」と批判したのだ。これは、コラム子にとっては大きな衝撃だった。「ボウソミニオン」とも呼ばれるボルソナロ氏の信者は、ボルソナロ氏ならびに同スタッフのネット上での熱心な宣伝活動により「洗脳」されて生まれたと、しばし揶揄されている。そうした人たちの中には、PSLの候補として出馬し、連邦議員や州議員になった人たちも少なくない。フロッタ氏は、そんな「ボウソミニオン」の筆頭格だとさえ目されていたからだ▼この出来事は、これまではボルソナロ氏の行なってきた女性、LGBT、人種、左翼差別に寛容だった人たちも、オラーヴォ氏を思想上の師匠(グル)と仰ぐボルソナロ氏や、同じくオラーヴォ氏の弟子のエルネスト・アラウージョ外相、リカルド・ヴェレス・ロドリゲス前教育相の最近の言動にはついていけなくなっていることを表しているといえそうだ▼「1964年の出来事は軍事クーデターではなく、革命」「1985年までの歴史は軍事独裁政ではなく民主主義」「ナチスは左翼が起源」。国の大事な役職についている人たちが次々に、このような発言を行なったのだ。先日のダッタフォーリャの世論調査でボルソナロ氏の支持率が32%に低下したことは話題を呼んだが、アラウージョ、ヴェレス両氏に至ってはわずか13%。人気を下げている理由は明白だ▼オラーヴォ氏の言動に至っては、ボルソナロ氏らのこうした発言を上回るインパクトさえある。「地球が本当に地動説なのか疑わしい。地球は平面かもしれない」と天動説の可能性を唱えたり、「スターリンがナチスを画策し、第二次世界大戦をはじめた」との持論を展開したり。さらに、自分の子供たちは義務教育課程を受けさせておらず、長女は12歳でやっと字が読めるようになった上、4年後に弟子と結婚させられている▼そんなオラーヴォ氏を崇拝するボルソナロ氏の暴走を抑制しているのが、当初、国民から「一体どんな政治をするのやら」と心配されていた軍人閣僚だというのもなんとも皮肉だ。カルロス・アルベルト・ドス・サントス・クルス大統領府総務室長官を中心とした軍人閣僚らは、ボルソナロ氏の行き過ぎた軍礼賛を抑え、台頭するオラーヴォ派をけん制することで何とかバランスを保っている。今や、大統領選中に「憲法改正作業は連邦議員が行なう必要はない」「13カ月給は廃止すべきだ」などの発言でフロッタ氏並みに馬鹿にされていたアミウトン・モウロン副大統領の方が、「ベネズエラや中東の問題は慎重に」「中絶は女性の権利」「(急進左派の)ジャン・ウイリス元下議への殺害予告は民主主義への脅威」など、大統領本人よりも冷静な発言を行なうようにさえなってきている。(陽)