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立つ鳥あとを濁さず=移民の「終活」座談会=(1)

座談会の様子

座談会の様子

 ニッケイ新聞編集部は、読者の「終活」(人生の終りに向けた活動)意識の高まりに応え、「移民の終活座談会」を行った。ブラジル日系熟年クラブ連合会会長・上野美佐男、同会第3副会長・中川浩己、介護士・長谷川美津子(JICAシニアボランティア)、本紙編集長・深沢正雪の4氏が参加し、移民ならではの終活の悩みを語り合った。

驚くほどキレイな死にざま

【深沢】「終活」っていうのは、「人生の終わりに向けた準備活動」の略語です。
 自分が亡くなった際の葬儀、お墓、遺言の準備や財産相続、身の回りの整理などを、生前に行うことですね。「死と正面から向き合い、最後まで自分らしい人生を送るための準備」と表現する人もいます。
【上野】ああ、そういうことか。聞き慣れん言葉だね。
【深沢】コロニアでは、まだあんまり言われていないんですよ。
【長谷川】日本では、女優の樹木希林さんが自分の癌がわかったころから身辺をきれいにしていって、亡くなるときには、遺族に迷惑がかからにないようして亡くなられたということで話題になりました。
【中川】芸能人でそういう方が何人かいらっしゃいますね。
【深沢】僕が一番、きれいな死にざまだなと心底感動したのは、2014年6月12日に肝不全で突然亡くなった、ウルグアイ大使の大部一秋さんです。覚えていますか? 日本移民百周年の式典のあと、2008年から3年半の間、在サンパウロ総領事を務められた方です。
 『コロニアには日本人の魂がある』との想いで106カ所もの移住地を回られました。今では任期中に100カ所以上の地方移住地を総領事が訪ねるのは恒例になりましたが、大部さん以前はそんな人いませんでした。そういう意味で、すごくコロニアに貢献のあった総領事です。
【上野】覚えていますよ。大部さんは立派な総領事でしたよね。

大部元在サンパウロ総領事の遺影を手にする栄子夫人(左)と娘の美栄子さん

大部元在サンパウロ総領事の遺影を手にする栄子夫人(左)と娘の美栄子さん

【深沢】大部さんの未亡人、栄子未亡人が2015年にブラジルに来られた時に直接に聞いたんですが、亡くなる2週間前まで、ウルグアイ国内の遠隔地に出張するなど通常業務をこなしていたそうです。よくある体調不全の一時的な治療だと思って14年6月3日に帰国した際に、東京の病院でいきなり「余命は数日」と伝えられたそうです。
 そんな状況でも、自分の葬儀の段取り、例えば葬儀場の場所取りや弔辞の依頼などを、ベッドの上から電話して自分で決めていたそうです。後任のことも考え、執務室のどこに何があるとか、鍵の場所まで細かく指示し、「やることは十分にやった」と友人に伝え、眠るように亡くなったそうです。
 未亡人から「死に顔は笑顔でしたので、皆さん驚かれていたようです」と聞き、素晴らしい死に際だと心底感心しました。また自分もそうありたいと思いました。
 ベッドの上から、自分で自分の葬儀、弔辞の手配を友人にしてから、安心して笑顔で亡くなる。これぞ究極の終活ではないかと感心しました。
 彼は離任の挨拶で「体は日本へ行くが、心はサンパウロに残る」との名言を残しました。そんな〝永遠のサンパウロ総領事〟の生きざま、というか「死にざま」から学べるものがあるんじゃないかと思うんですよね。
【中川】人生の終りを全て自分で用意して逝かれたのは、本当に立派なことだと思いますね。(つづく)