「ブラジルは世界レベルでベスト8に入ります。剣道人口も増えているんですよ」―ブラジル剣道連盟の国際担当理事を務める蛯原忠雄さん(69、宮崎県)は、そう声を弾ませた。5月末に開催された文協の文化祭りの折、ワークショップ会場で話を聞いた。現在、剣道連盟が協力して、アクション映画がリベルダーデ区で撮影されている最中だと言う。柔道を通した少年の成長を描いた映画『グランデ・ビットリア(Grande Vitoria、偉大な勝利)』が2014年に公開された。それに続く日本武道映画になるかもしれない。
蛯原さんによれば、「ブラジルの会社がサンパウロを舞台に、ヤクザに追われた娘を主人公にした映画を撮影している。その娘が日本刀で自分の身を守るんですが、我々も撮影に協力しています」という。
調べてみると、ブラジル人の著名なコミック作家のダニロ・ベイルス氏(Danilo Beyruth)が描いたグラフィック・ノベル(コミック)『SAMURAI SHIRÔ ― YAKUZA, HONRA E SANGUE NO CORAÇÃO DE SÃO PAULO(サムライ・シロー=ヤクザ、サンパウロの心臓部で名誉と流血)』(ダークサイド出版、192頁、ハードカバー)を原作にした映画製作が進められている。
18年9月24日付オ・グローボ紙サイトによれば、映画版の題名は『Princesa da Yakuza(ヤクザ姫)』で、監督はヴィセンチ・アモリンだ。勝ち負け抗争から発想を膨らませた映画『汚れた心』を2012年に公開した監督だ。この映画と同様に、日伯双方のプロ俳優が演じることになるそうだ。
ベイルス氏は同紙の取材に答えて、「構想は10年ほど温めた。でも自分のイメージを表現できるアイデアが浮かんでからは早かった。6、7カ月で描画できた。映画化の話が出てきた時、まっさきにアモリン監督に依頼に行った。彼は日本の俳優を使って撮影した実績があるから」と語っている。
新流行文化紹介サイト「pontozero」の記事よれば原作は、「スピード感たっぷり、アクションシーンにあふれ、大都市特有の濃密さと多文化さを織り込んだ作品」という。ストーリーは「日系娘アケミは、記憶を失って刀を手にした奇妙な老人と出会い、そしてなぜか日本からのヤクザに追われるようになる。彼女は生き残るために戦い、そして祖先の秘密と直面することになる」というもの。
後者サイトによれば、ベイルス氏は黒澤明監督の映画『用心棒』『七人の侍』に加え、ポ語訳が刊行されている劇画『子連れ狼』(小池一夫原作・小島剛夕画)に影響を受けているという。
蛯原さんは「撮影スタッフはほぼブラジル人。エキストラの試験もあり、我々も受けました。少しでも剣道の宣伝になればと思って。空手や柔道と違って、人に見せる機会が非常に少ない。というか、武道の精神が強く残っていて、人に見せるものではないというイメージがあるので。でも、ブラジルで剣道をやる人に増えてほしいので、映画が成功してくれることを祈っています」との心情を吐露した。
ブラジル人が描いたコミックを原作に、ブラジル企業がブラジル人監督で、移民が作った多文化都市サンパウロの中心部を舞台に、剣道連盟が協力してヤクザ映画を撮影する。多文化国家に相応しいアクション作品になりそうだ。
「組織が若く、おしゃれ」=指導員の中武さんに特徴聞く
1月に着任したJICA青年ボランティアの剣道指導員・中武亮介さん(30、宮崎県)にもブラジル剣道の特徴を聞くと、「日本の剣道は組織の中心が高段者だから50~60代。こちらは30~40代と若い。日本ではデモンストレーションとかほとんどないですが、こちらは今回のようなデモがある」との違いを挙げた。
「日本では中学や高校で部活や授業で始めるけど、だんだん減っていく。こちらは大人になってから始める人が多い。逆に子どもが少ない。ただし子どもの時からやっていないと世界レベルの強さに付いていけない。それが弱みでしょうか」と分析した。
さらに「剣道のTシャツやフード付きジャケットとか実におしゃれな関連商品(グッズ)がたくさん作られていて、思わず買ってしまいます。こういうのは日本にないんですよ」と笑った。