世紀のオデブレヒト汚職事件の摘発や取締に関わる「LJ・ラヴァジャット作戦」は、今になってブラジル人は単に悪徳の無駄な処置だったと主張し、我々多くの中南米人をして、何がなんだか全く訳が解らなくさせている。
その曰くは、当時スーパースターの名声を振るった、セルジオ・モロ判事により、ルーラ・ダシルヴァ元大統領の再選の道を阻止すべく、同氏の検挙・投獄計画案がデッチ上げられたのだと言う。
そして、数多く存在する疑問の中で、先ず糺さねばならぬのは、即ち「件の大スキャンダルの根元企業の第一責任者、マルセーロ・オデブレヒト氏は、どうなるのだろうか?」である。まさか同人を「美化、聖化し、聖人の座に列福する」のでもあるまい。
ブラジル人は、我々をクレイジー(気狂い)化して仕舞う心算なのか?
これまでは、オデブレヒトはアメリカ大陸の、殆どの主だった政府や政治家を大規模な賄賂工作で、収賄したと盛んに喧伝されて来た。
これ等は、全て作り話だったのか?
なお、ルーラ自身が、その首唱者(プロモーター)、管理者(マネージャー)、あるいは人気取りの大衆迎合演説で、毎度20万ドルの講演料を受取っていたと云われる。左様な噂ではなかったか?
もう一つの質問は、オデブレヒト・グループと緊密な関係にあった廉で、最近の歴代4人の大統領を告訴し、処罰したペルーの国民はどうする心算だろうか?と言う疑問である。
その中の一人、アラン・ガルシア元大統領は、逮捕される直前に自宅でピストル自殺までして仕舞った。
ペルー国では、オリャンタ・ウマーラ元大統領は、ルーラの複数の選挙コンサルタントによる助言、及びルーラのお陰でオデブレヒトから得た選挙運動資金で、晴れて当選した事は公然の秘密であった。
最大の疑問は、モロが入閣を受諾した理由
最大の謎は、「なぜ、なにゆえにボルソナロ大統領は、セルジオ・モロ判事に超スーパー司法大臣としての入閣を促し、また同氏も敢えてそれを受諾したのか?」と言う謎である。
ボルソナロはある意味で、再出馬を拒まれたルーラに対する勝利の“純粋性”に、相当な疑問を持ったと云われる。
そして、モロは自身の所作、行為に大きな汚点を残した。
例え彼は平静にして、良心の呵責は無いとは雖いえども、この度の入閣の事実は、少なくも過去の信用を著しく疵付けた。
一体、何の必要があってボルソナロ内閣に入閣したのか? それ程に、絶望的な問題でも抱えていたのか? まさか、又新たな悪事を企んでの事でもあるまい。
中南米左翼には、ベルリンの壁崩壊に匹敵するルーラ投獄
国際左派勢力、特にラ米地域左翼にとって、ルーラの投獄はかつてのベルリンの壁の崩壊に匹敵する打撃だった。
それで、ほとんど全てが崩落し、マドゥーロとオルテガ及びクリスティナ・キルチネルはあえぎながら、やっと生き残る格好になった。
ルーラに生じた事態の影響で、彼等か喫したネガティブな波紋は、誰しも疑う者はいない。
しかもルーラが、新たにブラジルの大統領に再選されていたなら、逆に彼等には大変好都合だったろう事は間違いない。
もう一つの質問は今後「サンパウロ・フォーラム」(左翼国際討論会)は、「どこの誰によって財政支援されるか?」である。
左派勢力の大努力により、ルーラの再起・復権を願い、果てはルーラを聖人に祭り上げても不思議ではない。
しかして、モロはそのお膳立てを成したとも言えるだろう。
これには或る程度ボルソナロ自身、又は多少トランプの影響、及びグレン・グリーンヴァルド(Glenn Greenwald)のサイト(The Intercept)の一連の記事(通称ヴァザジャット)で明らかにされた他、モロ判事と主任検察官との間の交信内容が更に加担した。
プライベートな会話を干渉(盗聴)し、開示する可否の如何を議論し、なおそれが有効であるか否やの意見を述べるのは、一般人には構った事ではない。
問題なのは、公人の間に限ってそれが為されるが、国民はその問題を知る権利があると云う事である。
モロは同じく、ルーラとジウマの会話の内容を当時暴露したが、今度は彼本人にその順番が回って来た様だ。
それ等の図式を、コンプリートにするには、同じくニュースバリューの有る、その発信者やメッセンジャーの経歴を辿るべきである。
国家安全保障局・NSAのスノーデン機密情報を広く流布したのが前記のグリーンヴァルドで、ベネズエラに対するトランプの未遂「クーデター干渉」を告発し、及びアサンジのウィキリークス問題の弁護をした。
ただし、The Interceptサイトの“爪痕 ”は、一方的にのみ残された事は世に明らかだ。
ハッカーに暴いてほしい数々の南米の謎
そこでの、新たな必然的質問は、(ヴァザジャットを起こしたようなハッカーの手によって)「マドゥーロのキューバ人アドバイザー同士の交信や、ベネズエラに派遣された駐留ロシア軍、又はオルテガ、コレーア或いはキルチネル一族の隔し金はどこに所在するかも突き止められないのか?」である。
なお、「ルーラの全盛期時代の右腕で親友だった、(ジョセ・ジルセウJose Dirceu)内閣官房長が、行政府に反対の連邦議会の票数を纏め、数々のルーラ政策を通過させた。その事実を、当のルーラは全然感知ぜず、その関心も全くなかったとする、矛盾を解明する情報(通信)は届かなかったのか?」等の解説が欲しいところだ。
同じく、業界の賄賂によったと云われる、ルーラの命取りになった、豪華な3階建アパートの謎についても、確固たる証拠が得られないままだ。
The Intercept 自体が例の“(左翼の)大努力 ”の一部を加担しているのか? それは知って置く必要が有る事だ。
その一方、目下取沙汰されている色んな問題の要素が処理、分析される必要が有る。ルーラやボルソナロのいずれのシンパでも無い元大統領、フェルナンド・ヘンリケ・カルドーゾ氏による「現在の情勢は、将来更に難しい問題が発生しない限り、コップの中の嵐で、皆が騒いで居るに過ぎない」との意見を慎重に受け止め、大人の判断をしなければならない。(筆者註=この記事は6月17日付の当地ABC紙に投稿された、ウルグアイ人の著名なジャーナリストで著述家でもある、ダニーロ・アルビリャ氏の評論を抄訳、参考にしたものです)