ボルソナロ大統領が29日、「ブラジル弁護士会(OAB)会長の父親は、信用が置けないと判断した左派(反体制派)が粛清した」と発言し、物議を醸したと30日付現地紙が報じた。
この発言は、昨年9月に起きた、ボルソナロ氏襲撃犯の弁護士に対する連警の捜査をOABが邪魔したとの批判に続くものだ。大統領はOAB批判に続き、「会長が望むなら、彼の父親が軍政下で失踪した経緯を話してやる」と語った。
その数時間後、散髪中の大統領がツイッターの生中継で、「失踪は軍の仕業ではない」「左派の連中が信頼出来ない奴を粛清していた事は誰もが知っている」と語った。
だが、軍政下の死者や失踪者に関する調査を行う真相究明委員会の武装抗争者名簿には、フェルナンド・サンタクルース氏の名前は出てこない。また、軍政下の死者や失踪者に関する書物には、フェルナンド氏は1974年2月22日に陸軍秘密警察によって殺され、遺体は製糖工場の窯で焼かれたと書かれている。
フェリッペ・サンタクルースOAB会長はビデオ閲覧後、「国民の代表者が今一度、為政者にあるまじき態度で公的理解と個人的理解に差がある事をさらけ出した」「大統領は残酷で一片の共感性もない態度を見せた」「悲しい事だが、一人の父親の死を日常の出来事の如く扱い、26歳で殺された青年をあざ笑うような人が大統領なのだ」との声明を出した。
これに対し、大統領は「彼の感情を刺激するつもりはなかった」「事実を話しただけ。批判したければ批判すればよい」とも語った。
大統領発言後、OAB会長や親族は、最高裁に訴え、軍政時代の迫害や殺害について知っている事を全て語るよう求める意向を表明。軍政下で殺されたり失踪したりした政治家に関する調査委員会初回委員長を務めたミゲル・レアレ・ジュニオル元法相らも、同様の要請を出している。
軍政下で下議職を追放された父親と共に10年間の亡命生活を経験したサンパウロ州のジョアン・ドリア知事(民主社会党)は、「OAB会長の父親の死をこのような形で語るのは許し難い」と批判。マラニョン州のフラヴィオ・ジノ知事(ブラジル共産党)は、「父親への残虐な殺人行為を特定の人物攻撃の政治的な道具に使うとは」と語った。
ウンベルト・コスタ上議(労働者党)は、「大統領職を卑劣な方法で使い、父親に関する記憶に対する卑怯な方法でOABや会長を攻撃する、悪意に満ちた発言だ」と指摘。レナン・カリェイロス上議(民主運動)も、OAB会長に連帯の意を表明し、「大統領は日増しに敬意を失っている。信じ難い事だ」とした。