ブラジル日本商工会議所の総務委員会(讃井慎一委員長)と企画戦略委員会(大久保敦委員長)が主催する、2019年下半期の業種別部会長シンポが22日午後、サンパウロ市内ホテルで開催され、不透明な先行きの中にもいく分の好転要素が確認された。日本メルコスルEPA交渉開始を求める声が続々と上がり、出席した在伯日本国大使館の濱坂隆参事官、塩野進書記官はともに「日本とのEPAの件、重く受け止めた。皆さまにとって望ましい形で進めていく」と応えていた。
貿易部会の猪俣淳部会長は、下半期の焦点は税制改革や民営化推進に移ったとし、「大幅な景気回復は期待しにくい」「亜国大統領選、米中貿易戦争、ブレグジットなどを受け不透明感が高まった」と報告した。
機械金属部会の山田佳宏部会長は「ESG投資(環境、社会、企業統治に配慮した企業を選別して行う投資のこと)、ICT(パソコンだけでなくスマホなど、色々な形状のコンピュータ情報処理や通信技術の総称)、AI(人口知能)の波はブラジルにも押し寄せている。現政権が自由貿易政策を推進することは確実で、それに伴いブラジルコスト削減や低生産性の改善も実行される流れにある。環境変化に応じたビジネスチャンスの模索を」と提言した。
自動車部会の下村セルソ部会長は、上半期の四輪総市場は131万台で前年同期比12%増と報告し、「下半期はさらに消費が高まると予想される」と報告した。ただし、輸出主要国アルゼンチンの経済不況を受けて輸出は前年比マイナス38%となった。
FTA交渉に関して、EU・メルコスル(以下Mと略、20・2兆ドル、8億人)は6月に貿易協定締結、カナダM(4・6兆ドル、3・2億人)は今年中に締結予想、韓国M(4・5兆ドル、3・4億人)は来年中に締結予想、米M(22・1兆ドル、5・9億人)は7月に協議開始との現状をのべ、「EUや韓国に劣らない内容の日M(7・9兆ドル、4・2億人)交渉開始を要望する」と強調した。
電機・情報通信部会の小渕博部会長代理は、韓国Mが来年半ばに締結されればさらに勢いがつき、現在以上にLGやサムスンが安値攻勢をかけてシェアを上げる可能性があると指摘し、「日M促進が急務」と訴えた。中国のZTEが亜国サンサルバドル市で市中監視システムを受注、ブラジルもファーウェイを5G入札から締め出さない方針であり、「中国・韓国勢のアグレッシブな動きに対抗するため、官民一体になった新政権との関係構築が望まれる」と要望した。
最後に講評をした野口泰在聖日本国総領事は、ブラジルと共に中南米経済の両輪であるメキシコが左派政権となり、経済自由化の波が変わったことを受け、ブラジルへの期待感が高まっていると報告。ドリアサンパウロ州知事は9月に訪日するとの予定を明らかにし、「なんとか日MのEPA進めていきたい」と語った。
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商議所部会長シンポの金融部会の後半は、ブラデスコのチーフエコノミスト、フェルナンド・オノラト・バルボザ氏が受け持ち、「経済モデルを変える大きな節目にいる。数年後には公的投資が経済を底支えする形から民間主導になる」と展望した。経済の危険度を示すCDSは8月19日現在で10ポイント程度と最低水準にあり、Selic(経済基本金利)は5%へ向けてさらに下がり、来年もその水準を維持すると見通した。社会保障改革が上院を通過すれば、今年中にも投資格付けが1ランク挙げられ、税制改革やそのほかの経済政策が進めば、来年中にはもう1ランク上がることも予想されると語り、投資を呼び込みたいブラジル地場銀行らしくかなり楽観した予測を展開した。
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運輸サービス部会の発表の中には、日本からの観光客が年々落ち込んでいるとの数字も公表された。2013年は8万7225人、14年は8万4636人、15年は7万102人、リオ五輪があった16年は7万9753人と増えたが、翌17年には6万342人と落ち込み、昨18年も6万3708人と低調だった。原因として、NHKなどによる「日本人がブラジルで犯罪者に狙われている」的な治安の悪さを誇張した報道による悪影響が挙げられた。発表の中で、コロニア的に衝撃的だったのは、日本側で細々と続けられていたウニベルツールが7月19日に廃業していたこと。1971年に開始して以来、48年の歴史に幕を引いた。その原因は、まさにこの日本人観光客の減少。収入の柱の一つだった観光ビザ申請手数料が、6月から制度改正でビザ免除になったことで、手数料が取れなくなったことだとか。