全てはタイミングと協調の問題

ブラジルがアマゾン森林火災問題で良くない意味で世界に注目された1週間だった。これに関し、世界の世論の大方は「火災の原因となる森林伐採を増加させたブラジルが悪い」と見ているが、ブラジル内を見ていると「昔の労働者党(PT)政権の方が伐採が多いのに今なぜ」「森林伐採は本当に悪いことなのか」「世界的な左翼的風潮がボルソナロ政権を苦しめたいだけなのでは」と反論する世論もある▼ここで改めて事実を整理しよう。まず、国外からのプレッシャーが「左翼的な風潮の産物か」どうか。まず、ボルソナロ大統領と対立したフランスのマクロン大統領は中道政治家だが、17年のフランス大統領選では投資銀行家の出自ゆえに左派からはむしろ反感を買っていた人物だ。また、ボルソナロ氏がそれ以前から批判を行なっているドイツのメルケル首相は国内では中道右派のリーダー。もっといえば、今回マクロン氏が召集したG7で左派と呼べるのはカナダのトルドー首相くらいなものだ▼また、ブラジルとて、世界の政界の環境保護重視の路線に反旗を翻している政治家が多いわけではない。昨年の大統領選候補者でそれに反対したであろう政治家はボルソナロ氏以外には考えられない▼続いて、「なぜPT政権の頃の方が伐採が多かったのに問題にならなかったのか」。これも、世界の政治が左派をひいきしたいからではない。国連で森林問題が取り沙汰されたのは1992年に行なわれた国連環境開発会議(UNCED)が最初で、歴史そのものが浅い。さらに、より具体的な対策に取り組む国連森林フォーラムがはじまったのは2000年10月のこと。ブラジルでは90年代に森林伐採が増えていたが、それに対しての世界的な対策さえ作られていなかったのだ▼このフォーラムを通じて、国際的な森林伐採の現状を知るための調査や研究が行なわれ、森林伐採量削減のための具体的な方策がブラジル政府の協力のもとにはじめられたのが2005年でやっとのこと。だが、北伯出身の環境相、マリーナ・シウヴァ氏の指揮もあり、ブラジルの森林伐採量は急速に減少。2017年には、2004年時と比べ、伐採量が72%も減っていた。2014年7月にドイツのボンで行なわれた国連気候変動会議においては「ブラジルは伐採削減に成功した見本」との報告まで行なわれている▼このようにPT政権は、環境問題に関する世界や世論にうまく同調した。だから、好まれていた。だがそこに、「環境問題などベジタリアンの問題」などとの暴言を吐くような人物がこれまで喜ばれていた流れに逆行するように急に森林伐採を進めたとすれば、どうなるだろう。しかも、伐採増加のデータに加え、異常気象まで記録したとするならば、「これまでの世界の努力をむだにするのか」となっても、それは仕方がないところではないか▼「環境問題推進は先進国のエゴ」。そういう意見もある。だが、それを世界の真ん中で叫んだところで、環境を守らないとどうなるか。事実、フィンランドはブラジルからの牛肉の輸入停止を検討し、世界の有名靴ブランド18社はブラジルからの靴のなめし革の輸入を差し止めた。環境問題はもはや政治だけでなく、企業倫理にまでかかわる問題だ▼あと、ボルソナロ大統領は森林伐採を「産業の保護」を理由に肯定するが、普段、労働者の権利を煙たがる同氏が古くからの民間の中小林業者の味方になれるのか。さらに今回、森林火災が起こった地域の中には大統領自身が「1平方センチメートルすら拡大させやしない」と言い続けるほど嫌っている、本来、森林伐採が認められていない先住民居住区も含まれているが、それは何を意味するのだろう。(陽)