ボルソナロ大統領は4日、元チリ大統領で国連人権高等弁務官のミチェル・バチェレ氏の父親を侮辱する発言を行った上で、同国の独裁者アウグスト・ピノチェト元大統領を称えた。ボルソナロ大統領は7月にも、ブラジル弁護士会(OAB)会長のフェリペ・サンタクルス氏の父親が軍政時代に行方不明になったのは、反体制派の仕業と発言し、物議をかもした。4日付現地サイトが報じている。
事の発端は4日、バチェレ氏がスイスのジュネーブで記者会見を行った際、ブラジルで警察官による暴力が増えていることや、民主主義が抑圧されていることを批判する発言を行ったことだ。
バチェレ氏は、今年の上半期におけるサンパウロ州とリオ州で起きた警察官による死者数の統計に触れ、前者が12%、後者では17%増え、全部で1291人が亡くなった(実際の統計ではサンパウロ州が3%増、リオ州が17%増、死者総数は1307人)と語り、「ブラジルでは民主主義の場が失われつつある」と発言した。
その発言を聞いたボルソナロ氏は不快感を隠さず、ツイッターで「(アマゾン森林災害の際の)フランスのマクロン大統領と同じ干渉の仕方だ」「彼女は愚か者たちの擁護者だ」と批判した。
ボルソナロ氏はさらに、「ブラジルに自由がなくなっていると言うが、ピノチェトが1973年に左翼を倒さなければ、あの国は今頃、キューバと化していたんだぞ」とした上、「(ピノチェトが倒した)左翼の中には空軍将軍だった彼女の父親も含まれている」とまで語った。
バチェレ氏の父アルベルト氏はピノチェト政権の前のサルバドール・アジェンデ氏に仕えていた軍人だったため、1973年の軍事クーデターで逮捕され、74年に処刑されている。
このクーデターでは3年間で13万人が逮捕されたといわれ、バチェレ氏自身も逮捕・拷問の憂き目に遭っている。
もっとも、ボルソナロ氏は、今年7月にもOABのフェリペ・サンタクルス会長に対し、「父親のことを話してやろう」と、ブラジル軍政下の1974年に政治犯として逮捕され、行方不明になった同会長の父親のことに触れて、波紋を投げかけている。
この発言は、軍政時に一家で国外逃亡を経験しているロドリゴ・マイア下院議長やジョアン・ドリア・サンパウロ州知事からも強い批判を受けた。
ボルソナロ氏は今月下旬、ニューヨークで開かれる国連総会での演説が予定されている。同氏は8月下旬に、法定アマゾンでの森林火災拡大で国際世論の批判を浴びており、何を語るかが国際的に注目されているが、その直前に国連関係者を批判する行為となった。