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日本提唱の未来社会像を展望=講演会「ソサエティ5・0」で=文協が非日系ビジネスマンで満員

コエリョ社長、奥原氏、石倉教授

 ブラジル日本文化福祉協会(石川レナト会長)がブラジル日本青年会議所(JCI)と共催した講演会「ソサエティ5・0」が8月15日午後7時からサンパウロ市の文協ビル大講堂で開催された。ポ語と英語のみの講演で入場料40レアルだったが、2階席まで埋まる満員状態で、1千人以上が入場した。来場者の3分の1は、会社帰りらしき背広姿の30~40代のブラジル人ビジネスマンで、普段とは違った客層であることを際立たせていた。

 「ソサエティ5・0」は日本政府が唱える未来社会の在り方。政府広報には『「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続く、人類史上5番目の新しい社会』と説明されている。仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立するのが日本の目指すべき姿として提唱された。
 司会は、文協ビジネス関係委員会の奥原ジョージ委員長が務めた。奥原氏は多国籍企業ブラジル・ダノネ社の元社長でビジネスに精通しており、彼の人脈で今回の講演者が呼ばれた。

「もっと多様な人材を活かせる日本社会に」と訴える石倉教授

 講演者は二人。一人はわざわざ日本から来た一橋大学名誉教授の石倉洋子氏。日本人女性で初めてハーバード・ビジネス・スクール経営学博士号を取得。数々の大学で教授を務める他、世界経済フォーラム(ダボス)のエキスパートネットワークのメンバー。
 石倉氏は「4・0(情報社会)はテクノロジーだけだったが、5・0はそれを高めて生き甲斐につなげた社会。でもテクノロジーを使いこなす創造性が必要。日本で始まった考え方だが、画一的な発想から新しいものを創造するのは難しい。日本の企業は同じ会社で生涯働いてきた60歳以上の男性が意思決定することが多いが、それでは新しいアイデアは受け入れられにくい。日本ももっと多様な人材を活かす社会にならなければ。テクノロジーを使いこなして、より人間らしく生きられる社会を作りましょう」と呼びかけて、大きな拍手が湧いた。

グーグル・ブラジル社のファビオ・コエリョ社長

 もう一人は、グーグル・ブラジル社のファビオ・コエリョ社長。同社は10年から16年まで7年連続でブラジル内の「働きがいのある会社」で1位を獲得し、フォーブス・ブラジル誌で国内トップ10のCEOに選ばれた。
 コエリョ氏は「奥原氏は90年代に5年間、私の上司だった。彼のおかげで今の私がある」と二人は舞台上で抱き合った。同氏の講演では、年代別の戦争数のグラフを映し出し「この200年を概観すれば、戦争が減って、寿命が伸びてきている。テクノロジーが平和や人の幸せに貢献しているからだ。5年前はウーバーもiFoodもなかった。ネットによって人は確実に便利になった」と強調し、石倉氏講演の最後の画面と同じ「いきがい」の図を出し、ソサエティ5・0を礼讃した。
 挨拶にたった野口泰在聖総領事は「石川体制で変革する文協を象徴するイベント。高齢化社会を技術革新で乗り越える重要な取り組み、概念をブラジルに広めることで、両国関係に貢献できるもの」との賛辞を送った。


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 講演会「ソサエティ5・0」は、良い意味で期待を裏切ったイベントとなった。文協といえば日系高齢者が集まるイベントばかりというイメージを打ち破ったという意味で、画期的な試みとなった。CBNラジオでは、テクノロジー解説者が「今度リベルダーデ区の文協で、グーグル・ブラジルのファビオ・コエリョが講演するが、入場料はたった40レアルだ。普通なら200レアル、300レアル払うような話が、たったそれだけで聴ける。今週一番のお薦め」と宣伝していた。ブラジル社会で話題になるイベント、一般社会に日本的な文化や考え方を広める役割を、文協が始めたことは大いに礼讃に値しそうだ。